コラム

ブラジル人に聞いた、おすすめの名作ブラジル映画 5選

2020/02/15

【ネタばれ無】

日本の裏側にあるブラジルといえば、サッカーとサンバの国を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。フレンドリーで陽気な国民性というイメージが強いブラジルだが、ファベーラ(貧困街)をはじめとする危険な一面も併せ持っている。

映画好きを公言している私でも、ブラジル映画にはほとんど馴染みがない。餅は餅屋、ブラジルにはブラジル人の理論で、何名かのブラジル人に、あなたの国でおすすめの映画を教えてほしいと質問をしてみた。

ブラジル人がおすすめするブラジル映画を備忘録として記事を残しておこうと思う。ブラジル映画に興味を持った方の参考になれば幸いだ。

※私が鑑賞できていない作品も含まれるため、あらすじは友人達から聞いたものを基に、海外サイトの情報を使って補完している。実際のストーリーと齟齬があるかもしれないが、ご了承いただきたい。

シティ・オブ・ゴッド

© 2002 Wild Bunch

2002年に公開された『シティ・オブ・ゴッド』(原題: Cidade de Deus)はやはりブラジル人が真っ先におすすめしてくれる映画だった。映画好きがブラジル映画を挙げるとしたら、一番最初に思い浮かぶ作品でもある程有名な作品だ。

“シティ・オブ・ゴッド” と呼ばれるブラジルの貧困街ファベーラでは、暴力や犯罪が蔓延っていた。写真家を夢見るブスカペを通して、ギャングに憧れるリトル・ダイスをはじめとした、ファベーラの住人達を描く。

子どもが銃を持ってギャングとなり、ドラッグや犯罪に手を染める悲惨な現実を映し出し、世界中の映画祭で評価された作品だ。

また、本作は1960年代から1980年代のリオデジャネイロで起きた実際の抗争を基にして作られている。ブラジルで弁護士をしていた友人曰く、現在のファベーラは本作で描かれているよりも危険な状況にあるらしい。

私も初めてこの映画を観た時の衝撃は鮮明に覚えている。良質なブラジリアンミュージックに乗せて描かれる、悲惨なファベーラ。テンポが良く、リアルとエンターテイメントが共存した最高の作品だ。

シティ・オブ・ゴッド 10年後

©Livres Film

『シティ・オブ・ゴッド』と合わせて観てほしい映画として、2013年に制作されたドキュメンタリー映画『シティ・オブ・ゴッド 10年後』(原題:Cidade de Deus: 10 Anos Depois)もおすすめだそうだ。

『シティ・オブ・ゴッド』のキャストは、ほとんどが実際にファベーラで暮らす演技の素人だった。プロの役者だけでないからこそ、あのリアリティを描き出したのだ。

あれほどの傑作に出演したからと言って、全員が有名に慣れたわけではない。成功した人もいるが、ファベーラから抜け出せなかった人もいる。既に亡くなっているキャストもおり、ブラジルの現実を見せつけられるような作品に仕上がっているとのこと。

このドキュメンタリーと合わせて、『シティ・オブ・ゴッド』は一番おすすめのブラジル映画とのことだ。

☆Netflixで視聴可能(2020年2月現在)

エリート・スクワッド

©IFC Films

2007年に制作された『エリート・スクワッド』(原題: Tropa de Elite)はリオデジャネイロの特殊警察作戦大隊(BOPE)を描いたクライムアクション映画だ。本作は賞レースでの評価も高く、第58回ベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞している。

本作の舞台は1997年のリオデジャネイロ。BOPEのの隊長ナシメントはファベーラの麻薬ディーラーを掃討するように指令を受ける。同時に、ネトとマチアスが新人警官として配属されるが、腐敗した警察とギャング、そして市民達が争う混沌とした現実を目の当たりにする……。

『シティ・オブ・ゴッド』はドキュメンタリーと合わせて一番のおすすめということだったが、単体の作品としては本作こそがブラジル映画の最高傑作とのことだ。『シティ・オブ・ゴッド』とは対象的に大人の視点で描かれるファベーラのスリリングさが、非常に高く評価されている。

1作目には敵わないが、続編の『エリート・スクワッド ブラジル特殊部隊BOPE』も良作らしい。

A Dog's Will(英題)

©Globo Filmes

『A Dog's Will』(原題: O Auto da Compadecida)は、1955年に執筆された同名の演劇を基にしたコメディ映画だ。書籍化もされている、ブラジルでは何度も舞台で上演され、映画化、ドラマ化もされている非常にブラジル国民に人気の高い作品である。。

その中で最も有名で人気が高いのが、2000年に映画化されたものだ。

本作は1930年代初頭のブラジル北東部を舞台に、ジョアンとチコという2人の男の冒険を描いている。この地域は干ばつに見舞われ、人が暮らすには厳しい環境であるステップ気候に属する地域である。

難しい貧困の地域で、2人はパン屋として働き始める。パン屋の主人の妻の犬が亡くなり、教会へ連れていくのだが司祭は祝福を拒否する。そこから紆余曲折を経て、主要人物の多くが亡くなってしまう。そして、死後の世界で聖母マリアが2人を救うために奮闘する、という話だそうだ。

カランジル

© 2003 Sony Pictures Classics. All Rights Reserved.

『カランジル』(原題:Carandiru)は2003年に制作された、ブラジル・アルゼンチンの合作映画だ。この作品は、ブラジルのサンパウロに実在したカランジル刑務所が舞台であり、ボランティアで往診をしていた医師の著作を基に映画化された。

カランジル刑務所には、定員の4000人を遥かに超える7000人もの囚人が収容されていた。刑務所内には同性同士の結婚まであるほどの自由があったのだが、そんな時間は長く続かなかった。

1992年に囚人の暴動が発生し、111名の囚人が死亡するカランジル虐殺事件が起きた。その後、カランジル刑務所は解体されている。

自由過ぎる刑務所内の人間ドラマを描きながら、悲惨な虐殺事件の真実を映し出す衝撃の作品だ。

カナダで訪れたいくつかのパーティの中心にはブラジル人がいた印象が強い。陽気でダンスが好きなブラジル人に好きな映画を尋ねると、底抜けに明るいコメディを紹介されるのではないかと思っていた。

おすすめ映画を教えてくれた友人達も、皆とても陽気な人達だったが、私の予想は外れて紹介されたのはシリアスな名作が多かった。

ブラジル映画を観て、ブラジル観光に興味を持つ方もいるだろう。コルコバードの丘にサンパウロ、リオのカーニバル等、観光名所も多い。陽気な人達に囲まれて、ブラジルの友人曰く世界で最も美味しい料理フェジョアーダも味わってみてはいかがだろうか。

しかし、興味本位でファベーラには近づかないようにしていただきたい。映画でのファベーラは大げさな表現ではなく、ブラジル人でも不用意に近づかないのだから。

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