【ネタバレあり】本記事では映画『悪魔の毒々モンスター 毒々最後の誘惑』に登場するスクールバスに何が起こったか、そして私が感じた驚きの理由について述べる。
『悪魔の毒々モンスター 毒々最後の誘惑』とは
低予算!悪趣味!でおなじみトロマ・エンターテインメントの看板タイトル『悪魔の毒々モンスター』シリーズの3作目にあたる本作。1作目『悪魔の毒々モンスター』では主人公メルヴィルが汚染廃棄物の中へ転落し、悪魔の毒々モンスターが誕生してトロマヴィル(街の名前)を救う。2作目『悪魔の毒々モンスター 東京へ行く』では悪魔の毒々モンスターが東京へ行き、関根勤と共演して、人の鼻をたい焼きに変えて、力士と相撲をとる。
別次元の映画の話をしているのか?と思われる方もあろうが、これは本当に存在する映画だ。
『悪魔の毒々モンスター 毒々最後の誘惑』のあらすじ
トロマヴィルに戻ってきた毒々が、盲目の彼女の手術代を稼ぐために悪徳企業の手先となり働いたことで、市民と彼女の不信を買う。目が覚めた毒々は会長率いる悪徳企業に猛然と立ち上がるのだ。
直接対決の前に会長は「本当の姿を見るがよい!」と叫び、手足を痙攣させて、腹の中から緑色の悪魔を生み出す。会長の本当の姿は汁でジュルジュル。あまりのグロテスクさに周りの市民は目を伏せる。
ビデオゲームが好きな毒々のため、緑会長が用意したのが「運命のレベル5」と呼ばれる5つの関門。会長が仕掛ける5つのゲームに勝利せよ、とのことだ。
こちらの3つ目の関門にあたるレベル3で、スクールバスが登場する。なお前2つの関門は、劇中でも大変雑に扱われているため、本記事でも雑に扱いたい。土に埋められたり、燃えたりする。大変だ!
スクールバスに子どもたちを乗せて
「皆 私と一緒にドライブだ!」
そう叫んだ緑色の会長はまるで引率の先生のように優しく子供たちの背中を押してスクールバスに乗せる。そして自分は運転席に乗ってドライブを始めるのだ。笑顔の子も混じる子供たちを乗せたスクールバスを、毒々は追いかける。
舞台はトロマヴィル高校の屋外パーティ広場へ。スクールバスが人混みに突っ込んで、あわや大惨事……!にならず、そのままスクールバスはそりたつ岩壁に突っ込んでいくのだ。
スクールバスの空中浮揚
ここからが問題のシーンである。素っ頓狂な効果音と共に、スクールバスが浮揚し岩壁を登っていく。そして崖のきっさきで静止するのだ。
この映像はどうやって撮られたのか。低予算が売りのトロマでCGはありえない。そう、逆再生である。つまりスクールバスを崖から落とし、地上でペチャンコになる直前で映像を切り、そこから逆再生をすると、あら不思議。スクールバスがフワフワ浮いちゃうね!
ってことはつまり……?
間抜けな映画トリックを寛大な気持ちで眺めていた私のイメージに、数分先の映像が浮かんだ。スクールバスはこの後の展開で必ずペチャンコになる。地上でペチャンコになる映像を、低予算が売りのトロマが使わないわけがない。観客のトロマへの信頼が数分先の映像を予知させたのである。これはなかなか普通の映画ではできない。
この後の展開は書くまでもない。同じく逆再生で崖を登った毒々が、緊迫感ゼロの子どもたちを全員スクールバスから降ろして準備万端。スクールバスは崖から転落、ペチャンコ!はい満足!
クリストファー・ノーランとの類似
映像を逆再生して用いる。これはクリストファー・ノーラン『テネット』と全く同じ手法だ。1970年生まれのクリストファー・ノーランは『悪魔の毒々モンスター 毒々最後の誘惑』(1989)公開時に19歳である。観たな!ノーラン!(多分観てない)
映画はここで終わらない
スクールバスは元通り
私の目が釘付けになったのはむしろここからである。ペチャンコになったスクールバスを緑会長が逆再生で元に戻すのだ。そして同じように運転席に乗り込み「レベル4は難しいぞ」とのたまう。おや、これはもしかしてレベル3とレベル4とを時系列的に逆に撮ったのか?トロマにそんな知恵が……?
泥んこパークでの大爆発
ボンネットに毒々を乗せたスクールバスは泥んこパークと呼ばれる謎の施設へ。そしてちょっとした土盛りとその先のちょっとした水たまりへ。あれ?あれ?と思っている間にスクールバスは転落、そして大爆発するのだ。バスは骨組みが見えるまでに燃えてしまう。あわや毒々!となるが、さすがは毒々。水たまりの中から逆再生で帰還するのだ。
この後レベル5、最後の関門があるが、こちらは特筆すべき事項がないので割愛させていただく。続きはU-NEXTで観よう。
スクールバスは2台あった
つまりこの映画ではスクールバスを2台買い取っていたのである。これが冒頭で述べた私の驚きである。1台をケチって使ったかと思ったら、実は2台目はあっさり大爆発。レベル3とレベル4とを時系列的に逆に撮らなくても問題ないのだ。2台あるんだから。トロマの予算感を逆手に取ったとも言える、見事なメタ裏切りである。
『悪魔の毒々モンスター 毒々最後の誘惑』はなかったことに
スクールバスによるメタトリックを放ち、クリストファー・ノーランも観た(かもしれない)『悪魔の毒々モンスター 毒々最後の誘惑』だが、4作目『悪魔の毒々モンスター/新世紀絶叫バトル』(2000)では「2、3はなかったことに」とのコメントが冒頭で入る。
でも大丈夫。そんなのありえない!と憤慨する観客など存在しない。トロマ映画はそんな愛ある観客で支えられているのである。ケヴィン・ベーコンの出演も決まったリブート作(5作目)では「う〜ん、やっぱ2、3はあったことでもいい?」となることを期待したい。そしてまた、スクールバスの逆再生が観られることを願う。
私の心のスクールバスは、何度だって蘇るんだから。