コラム

「スター・ウォーズ」シリーズ随一の迷言 "I have the high ground" の意味に迫る

2019/12/07

© Lucasfilm Ltd. & TM.

「地の理を得たぞ!」という台詞に聞き覚えがある読者はどれくらい居るだろう。

なんとなくマグマっぽい情景が思い浮かんだならば、あなたは相当な「スター・ウォーズ」シリーズのファンと言っても過言ではない。なぜなら、『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』(原題:Star Wars: Episode III - Revenge of the Sith)でオビ=ワン・ケノービが放つこの台詞は、日本では取り立てて話題にならなかったからだ。

"日本では" というのがこの話の肝で、実は英語圏だと妙に知名度が高い台詞なのである。

原語(英語)では "It's over, Anakin. I have the high ground!" という台詞で、「スター・ウォーズ」シリーズ屈指の迷言として長年ネタにされ続けている。

シリーズ最新作『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』の公開が2019年12月20日(金)に迫っていることだし、この迷言が如何にして海外ファンの困惑の元となったのか、ここに記しておきたい。

※『シスの復讐』のネタばれ有

"I have the high ground" の基本的な意味

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"It's over Anakin. I have the high ground!" は2つの文から成り立っていて、前半は「もう終わりだ、アナキン」と至って普通の意味だ。この台詞が迷言と評される所以は、後半の "high ground" にある。

後半も特に難しい言葉は使われていないため、中学校で習う程度の英単語でも十分理解ができるだろう。

"I have the high ground!" を直訳するならば「高い場所は私が持っている!」となる。少し自然に意訳するなら「高い場所は私のものだ!」あたりだろうか。

"high ground" には言葉通り「高い場所」という意味の他にも、「(相手よりも)有利な立場や状況」を意味する場合もある。

つまり "I have the high ground!" は、大きく分けて以下の2通りの解釈ができると思っていただきたい。

  • (地理的に)高い場所は私のものだ!
  • (立場的に)私の方が有利だぞ!

問題はオビ=ワン・ケノービの立ち位置

さて、シリーズ屈指の迷言を日本語に直してみたものの、字面だけ見ると特におかしな所は無さそうだ。アナキンよりもオビ=ワンの方が強いだろうし、「私の方が有利だぞ!」という台詞は至極自然なように思える。

だが問題は、この台詞が放たれた文脈にある。百聞は一見に如かず、下の画像を見てもらいたい。

左がアナキン、右がオビ=ワン
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そう、オビ=ワンがマジで高い場所に陣取っているのだ。

2人の位置関係のせいで、英語圏の「スター・ウォーズ」ファン達はとてもとても困惑してしまう。だって場所的に「高い場所は私のものだ!」という意味なんだろうし、だとしたら何でそんなことを声高らかに言うのかさっぱり分からないんだもの。

「スター・ウォーズ」シリーズに縁が無かった方のために補足しておくと、同シリーズの中で「高い所に立った方が有利」と言及されたことは一度も無い。つまり「高い場所有利説」は何の伏線も設定も無く唐突に披露されるというわけだ。

ファンの議論は迷宮入り

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だが多少の混乱で退くファン達ではない。彼らは鍛え上げられたスター・ウォーズ・フリークスなので、「スター・ウォーズにおける事象は全てちゃんとした理由がある」と信念を持ってこの課題の究明に当たった。

彼らが執念を以て捻り出した説は、概ね以下の通りだ。

ジェダイ的にも高い場所は有利なんだよ

まず、オビ=ワンの指す “high ground” が「高い場所」を意味しているのだと受け入れてみよう。

一般的に、戦いにおいては高い場所を陣取った方が有利とされている。古くは孫氏の「兵法」にも記されている戦いの定石で、これは遠い昔はるか彼方の銀河系でも恐らく通ずるはずだ。

他の作品で一度も言及されていない戦法が何故唐突に出てきたのかは説明し切れないものの、理には適っていそうな説である。

高低差はともかく、実際有利じゃん?

次に、「高い場所」ではなく「(相手よりも)有利な立場や状況」を指している場合を考えてみよう。

アナキンはマグマの上に浮くホバーボード的なものに乗っているため、足場は不安定極まりない。翻ってオビ=ワンは岩場に乗り移ったのだから、足元は安定そのものだ。

高低差を無視しても、これはどう考えたってオビ=ワンの方が有利な状況と言えるだろう。「お前、そんな不利な状況を覆せるほど強くねーぞ」とオビワンを抑止する台詞と解釈すれば、筋は通る気もしなくはない。

オビ=ワンもよく分からずに言っていた

議論が長引き過ぎて、いつの間にか訳の分からない結論に至ってしまうことは往々にして起こるものだ。この台詞についての議論でも、不思議な袋小路に行き着いたフリークスが見受けられた。

彼らの主張は「オビ=ワンも焦っていたので、意味の無いことを言ってしまった」というものだ。この解釈によれば、”high ground” が高所を指していようと有利な状況を指していようと関係ないらしい。

アナキンを止めたくて「俺の方が強いんだから!」と主張しようとした結果、なんだかよく分からない言葉が出てきてしまったというのだ。


と、まぁぶっちゃけ信頼に値する定説は無い。どれを信じるかは、完全にあなた次第だ。

日常会話で使ってみよう!

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さて、せっかくシリーズ屈指の名台詞 “I have the high ground!” の本当の意味(?)を理解したのだから、この台詞を実際に使えそうなシチュエーションも併せて紹介しよう。

一番分かりやすいのは、エスカレーターで下の方に誰かが居る時だろう。”I have the high ground!” と両腕を開いて言い放てば、すごい目で見られること間違いない。これはまさに『シスの復讐』のシーンを忠実に再現している。

次は場所をプールに移してみよう。浮き輪をつけてプカプカ浮いている友人に向かってプールサイドから “I have the high ground!” と言えば、自然と自分の優位性を示せる。プールから上がって来ようとしたら、ライトセイバーで足元を切りつけてやれば良い。

最後は、喧嘩で負けそうになった時だろうか。涙目でも掠れ声でも何でも良いから、とにかく両腕を開いて “I have the high ground!” と叫べば、フォースの加護を受けられるかもしれない。「かもしれない」と言って私が責任逃れをしようとしている点は、目を瞑ってくれ。

うーん、今まで何度か映画に登場する台詞を紹介してきたが、今回の台詞はあまりにも使いづらい。上に挙げた例も、いつもよりちょっとだけ無理のあるシチュエーションになってしまった。

こういう使いづらさも、迷台詞たる所以なんだろうな、きっと。もし読者の皆さんがより良い使用例を思いついたら、是非私のTwitterアカウントにでもお知らせ頂きたい。

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そうた

編集を担当。ホラー映画やサスペンス映画など、暗めの映画が好き。『ジャーヘッド』を愛しすぎてHD DVDまで買ったものの、再生機器は未購入。山に籠って薪を割る生活を夢見ている。

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