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観ているあなたも癒される美しい物語 映画『A Beautiful Day in the Neighborhood』

2019/12/03

© Sony Pictures Entertainment

【ネタばれ無】

私達は映画に何を求めているだろう。興奮のアクションだったり、とろけるようなラブストーリーのときめき。とにかく大声で笑いたかったり、感動の物語に涙したい等、私達が求めるものは観る映画によって様々だ。

そして、映画に “癒し” を求める方も少数ではないだろう。日常の疲れや悩みから一時でも解放される時間として、映画の世界に浸るのは良いストレス解消になる。

アメリカ、カナダで2019年11月22日(金)から公開された『A Beautiful Day in the Neighborhood』(邦題未定)は、癒しを求める方におすすめしたい映画だ。

アメリカの子ども向け番組「Mister Rogers' Neighborhood 」の司会者フレッド・ロジャースと、ジャーナリストのトム・ジュノーの友情を描く実話を基にした作品だ。日本公開は未定だが、カナダで一足先に鑑賞した私が本作を紹介しよう。

あらすじ

エスクァイア誌のロイド・ヴォーゲル(マシュー・リス)は、全米雑誌賞を受賞した経験のある優秀なライターだった。しかし息子が生まれたばかりで、父親としての役割と仕事のバランスが上手く取れない状態だった。

ある日、ロイドは子ども向け番組の司会者フレッド・ロジャース(トム・ハンクス)の記事を執筆することとなる。フレッド・ロジャースの取材に赴いたロイドは、様々な問題によって疲れ切っていることを見破られる。

ロイドはロジャースの取材を通じて彼自身が抱える問題、そして自身の父親との確執に向き合うこととなる……。

ミスター・ロジャースに癒される

ゆっくりとした口調のソフトな声、そして独特な間がなんとも落ち着きを与えてくれる。フレッド・ロジャースことミスター・ロジャースを演じたのは、誰もが認める名優のトム・ハンクスだ。

これは私の持論だが、早口でまくし立てるような話し方よりも、ゆっくりとした話し方でその場の雰囲気や話のペースを作り出す人物こそが本物のカリスマだと思う。どっしりと構えた包容力を感じさせる語り口は、自然と周りの注意を引き、言葉に説得力を持たせてくれる。

とにかく穏やかなミスター・ロジャースは、そのカリスマの定義に当てはまる人物だ。そして彼を演じるトム・ハンクスの声は、もはやアロマの一種と呼ぶに相応しい。声フェチの方こそ、本作は吹き替えではなく字幕で鑑賞することをお勧めしたい。(日本での公開は未定だが……)

音楽も癒し効果抜群

© Sony Pictures Entertainment

とにかくわかりやすくて優しい歌、オルゴールやピアノの音色が高い癒し効果を持っている。どこか懐かしいメロディは、古い番組を再現した少し粗い画質にとてもマッチしていて子どもの頃に戻ってテレビを観ている気分になる。

本作の監督マリエル・ヘラーの弟である作曲家のネイト・ヘラーが、音楽を担当している。そして「Mister Rogers' Neighborhood 」で実際に使用されていた楽曲も本作ではふんだんに使用されている。

番組のオープニング曲である「Won't You Be My Neighbor?」を始めとして、番組で使用されていた楽曲のほとんどをフレッド・ロジャース自身が制作している。トム・ハンクスが歌う「Won't You Be My Neighbor?」は一度聞けば頭から離れないメロディで、サウンドトラックにも注目だ。

ちなみに、クリス・クーパーが作中で歌うシナトラの名曲「恋のひとこと」(原題: Somethin' Stupid)も良い味を出しているのでお勧めだ。

日本人にはわかりにくい部分も

© Sony Pictures Entertainment

フレッド・ロジャースの子ども向け番組「Mister Rogers' Neighborhood 」は、就学前(2~5歳)の子どもを対象にした30分の番組で、アメリカで1968年から2001年まで放送された長寿番組だ。

フレッド・ロジャースは、ミスター・ロジャースとしての呼び名で北米での知名度がとても高い。アメリカだけでなくカナダでも彼は有名で、彼の番組を観ていた世代でない方でも名前を知っているという程だ。

しかし、日本ではフレッド・ロジャースの番組が放送されておらず、彼の知名度はほとんど無いと言っていいだろう。

本作での演出や進行等、随所で当時の番組を再現している。アメリカで彼の番組に親しんでいた方なら、当時の思い出と共に懐かしさを感じることだろう。だが、「Mister Rogers' Neighborhood 」を見たことがない日本人にとっては、そうした思い入れが無いためアメリカ人と同じようには楽しめない。

だからといって、日本人が鑑賞してもつまらない訳ではない。彼のことを知らなくても、スクリーン越しのフレッド・ロジャースには親しみを感じずにいられない。トム・ハンクスの名演ももちろんだが、実際のミスター・ロジャーズ自身がそうした人物だったということだろう。

本作の雰囲気には高い癒し効果があるアロマ系映画だ。リラックスしすぎてウトウトしてしまう方もいるのではないだろうか。だが、ミスター・ロジャースの名言は聞き逃さないようにしよう。その言葉にもきっと心が癒されるだろうから。

特に若い親世代には是非観ていただきたい感動作なので、日本公開を楽しみにしていただきたい。

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