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クリスチャンじゃなくても楽しめる 映画『2人のローマ教皇』 

2019/10/12

© 2019 - Netflix

【ネタばれ無】

『シティ・オブ・ゴッド』のフェルナンド・メイレレス監督の最新作『2人のローマ教皇』(原題:The Two Popes)が、2019年の冬からNetflixで配信される予定だ。

フェルナンド・メイレレス監督と主演のアンソニー・ホプキンス、両者のファンである私には絶対に見逃すことのできない作品だ。TIFF(トロント国際映画祭)で迷わずにチケットを予約したのだが、実はいくつか懸念があった。

キリスト教をテーマとしたドラマなのだが、クリスチャンではない私は、キリスト教に明るくない。ローマ教皇といえば、俗人とはかけ離れた別世界の人というイメージを抱いている程度で、世界史や小説等を通じて少しの知識しかない。さらに、日本語字幕も無い環境で本当に楽しめるのか心配だった。

2019年9月9日(月)にTIFF(トロント国際映画祭)で鑑賞したのだが、そんな心配も杞憂に終わり十分に楽しむことができた。今回は一足先に鑑賞した私が本作を紹介しよう。

あらすじ

舞台は2012年、教会の方針に疑問を抱いたホルヘ・マリオ・ベルゴリオ枢機卿(現教皇フランシスコ)が引退の許可を得るために教皇ベネディクト16世の元を訪れる。一方、教皇ベネディクト16世は、バチカンのスキャンダルや自身の問題で葛藤を抱えていた……。

教皇役が似合い過ぎな2人

現ローマ教皇である266代教皇フランシスコを演じるのは『007 トゥモロー・ネバー・ダイ』のエリオット・カーヴァー役で知られるジョナサン・プライス。そして、265代教皇のベネディクト16世を『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクター役でオスカーを獲得したアンソニー・ホプキンスが演じる。

そう、2人とも悪役として強烈な印象を残した名優だが、本作では教皇役が似合い過ぎている。衣装が似合い過ぎているだけでなく、所作や口調等も完璧に聖職者にしか見えないのは、超ベテラン俳優の演技力を存分に発揮しているからだろう。

しかし、演技力だけではなく2人の見た目がそれぞれの教皇と似ているのだ。ジョナサン・プライスは、自分の息子にもフランシスコ教皇に似ていると言われたそうで、監督もキャスティング時にそのことを意識したそうだ。もちろん、アンソニー・ホプキンスもベネディクト16世とよく似ている。

興味のある方は教皇フランシスコとベネディクト16世の写真と、2人の俳優を見比べていただきたい。誰もこれ以上のキャスティングを思い付くことができないだろう。

コメディとシリアスの配分が絶妙

フェルナンド・メイレレス監督の作品らしく、笑える場面はしっかり笑えて、シリアスな場面では脳裏に残るようなカットが見事だ。また、音楽も重要な要素の一つだ。バチカンでのドラマには意外な曲が笑いを誘い、同時にキャラクター性を紹介する演出にもなっている。

2人の教皇の対話がメインとなるので、監督が得意な疾走感に溢れるテンポの良さはない。しかし、物語が中だるみすることはなく、作品全体の緩急のバランスは絶妙だ。主演2人の抜群の演技力も相まって、鑑賞していて全く退屈することはない。

キリスト教だけではなくもっと普遍的なテーマで描かれているため、クリスチャンではない方も安心して鑑賞できる。

キリスト教について詳しくなくても大丈夫

フェルナンド・メイレレス監督に、ジョナサン・プライスとアンソニー・ホプキンスのダブル主演という、安心感しか感じない布陣で制作された本作。

文化庁の平成30年度版「宗教年鑑」によると、日本人のクリスチャンは全人口のうち1.1%である。日本においてキリスト教と縁が深い人は少数派だ。その中でカトリックに限定すると、更に少数となる。私もクリスチャンではないが、本作はクリスチャンではない日本人でも歴史ドラマとして、また2人の教皇の人間ドラマを十分に楽しむことができる。

雲の上の人というイメージのローマ教皇だが、ローマ教皇でもやっぱり同じ人間だ。全てが完璧ではない人間として2人の教皇が人間臭く描かれているからこそ、メッセージ性に説得力もあり共感もできる作品となっている。

歴史ドラマ、人間ドラマではあるもののユーモア満載で堅苦しくないため、是非Netflixで配信が始まった際には鑑賞をおすすめしたい。

アンソニー・ホプキンスについての余談

Photo by wakame

アンソニー・ホプキンスはスケジュールの都合上TIFFには来られなかった。彼を一目で見たかった私は落胆していたのだが、鑑賞前に一緒に列に並んでいたピンクの髪のお姉さんは彼が来ないと聞いて「Oh my boy…」と呟いて私よりも落ち込んでいたのが衝撃的だった。孫ほど年の離れている女性に「My boy」と呼ばれる人間等、他に心当たりがない。

彼にに会うことは叶わなかったが、本作上映後の質問コーナーでは監督とジョナサン・プライスがアンソニー・ホプキンスについてのエピソードをいくつか語っていた。その中でも特に印象的だったものを紹介しよう。

抜群の記憶力は健在

アンソニー・ホプキンスはとにかく脚本を読み込んで役作りをするという話が有名だ。1937年12月31日生まれの御年81歳である彼だが、脚本の暗記力は健在だった。撮影が始まる3~4ヶ月前から、脚本の台詞についての質問や提案のため、監督と何度も電話でやり取りをしていたそうだ。そして、撮影の1ヶ月前には台詞を全て完璧に暗記しており監督を驚かせたという。

意外とお茶目

アンソニー・ホプキンスはトロントに来れないお詫びを伝えて欲しいというメールを、ジョナサン・プライスに送っていた。そこには「私が一番大きいトレーラーを使えなかったことは秘密にしておいて欲しい」と添えられていた。

キャストには順列があり、本作におけるジョナサン・プライスの順列が1番上だったため、アンソニー・ホプキンスは2番目のトレーラーを使っていたそうだ。本作の撮影中、彼はジョナサン・プライスが使っていた1番のトレーラーを奪おうと画策していたと、ジョナサン・プライスが笑いながら語っていた。

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