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カメレオン俳優「クリスチャン・ベール」の体重増減記――始まりは母の言葉?

2019/04/03

©Annapurna Pictures

うわ、この人またやってるよ。

2019年4月5日(金)より公開される『バイス』(原題:Vice)の主役、クリスチャン・ベールの姿を見た時、私はついそう思ってしまった。

映画好き界隈では “チャンベー” というあだ名でも親しまれている彼は、子役の頃から圧倒的な演技力で魅せるイギリスの至宝だ。

とは言え、「英語が分からないから、演技が上手いかどうか分からない」と思われる方も多かろう。だが安心してほしい。

演技に対する彼の姿勢は、彼の “体型” を見れば一目瞭然なのだ。

最新作『バイス』でも、クリスチャン・ベールだと言われなければ多くの人は気づかないくらいまで肥え太っている。今回は、そんな “カメレオン俳優” なチャンベー兄貴の体重の遷移を、彼の出演作品と共に追っていきたいと思う。

カメレオン俳優を作り上げた母のアドバイス

© 1998 - Miramax

クリスチャン・ベールがカメレオン俳優としての片鱗を見せ始めたのは、1998年に公開された『ベルベット・ゴールドマイン』だと言われている。

とあるロック歌手を追う記者アーサー・スチュアート役を演じたベールは、役作りのために体重を落とそうとランニングを始めたのだという。

その役作りの最中にたまたまベールの母親が遊びに来たようで、彼女は「一体何をやってるの?」と問うたそうだ。

曰く、「ロック歌手やロック好きは、ランニングして痩せたわけじゃないでしょ。彼らは遊びまわって、食事に頓着せず酒を飲みまくっていたんだから、あなたも同じことをすれば?」とのこと。

母の言葉に妙に感心したベールは、そのアドバイスに従って食べるのを止めた。「スープしか飲んでいなかったけど、“食べない” のは苦じゃない」と、インタビューでは語っている。

映画史に残る減量

ベールは2000年に公開された『アメリカン・サイコ』において体重を戻し、サイコパスなマッチョを演じた。

だがその後2004年の『マシニスト』で、誰もが彼の執念を感じざるを得ない減量を果たす。

83kgあった体重を55kgまで落とし――実に体重の1/3の減量だ――不眠症を患う主人公を体当たりで演じ切った。彼の姿を見れば、役へのこだわりは火を見るよりも明らかだろう。

© 2004 Paramount Classics.

※参考までに紹介しておくと、ベールの身長は183cm。

ベールはこの姿を作り上げるにあたって、魔法の減量薬や、CG・メイクといった特殊効果には一切頼っていない。リンゴとツナ缶を1つずつ、そしてブラックコーヒーと数種のサプリ類だけという食生活を送り続け、“飢える" ことによって痩せこけただけなのだ。

「こうする他ない、としか思えなかった」とベールはBBCに対して語っている。「自分が追い求めている姿になるために、どこまで減量すれば良いのか分からなかった」

逸話を伝説に変えた増量

© Warner Bros

『マシニスト』の撮影後、ベールが挑んだのは『バットマン ビギンズ』だった。『バットマン ビギンズ』の撮影が始まるまでの猶予は、僅か6週間。

ベールはこの短期間で、痩せこけた不眠症の男からスーパーヒーローに変身するために元の体重まで戻し、さらに筋肉をつけなくてはならなかった。

「スープから始めて、ゆっくり体重を戻すように」という各方面からの助言を無視し、ピザやアイスクリームなどの高カロリー食を摂取し続けた。

誰が考えても体に悪影響が出る増量をこなしても「苦しかったが、苦しむのは楽しかった」と言ってのけるベールは、伝説以外の何物でもない。

そして健康を害してまで手に入れた体型を前にして「ちょっと太り過ぎ。もう少し痩せて」と10kgの減量を求めたクリストファー・ノーラン監督もまた、伝説である。

その後も増減を繰り返すベール

© 2010 - Paramount Pictures

一度の肉体改造でも寿命を縮めそうなものだが、ベールはその後も役作りのために体型をころころと変えていく。

2005年に撮影された『戦場からの脱出』では実在したベトナム戦争での捕虜(救出されたとき44kgだったそうだ)を演じるために30㎏減量。2006年の『プレステージ』では体重を元に戻し、2008年『ダークナイト』では『バットマン ビギンズ』と同じヒーロー体型に。

そして彼の執念にオスカーをもたらしたのが、2010年の『ザ・ファイター』での役だ。かつての栄光を失い、薬物にハマる男。薬物中毒者を完璧な形で銀幕に映し出すため、ベールは66kgまで減量した。

ベールは役を選ぶ時に「お、肉体改造が必要だな」とは思わないそうだ。演じたい役はいつも「おい!肉体改造必要なやつやんけ!」(意訳)と前のめりになるのだという。

ちなみに2012年には『ダークナイト ライジング』で90kgまで持ち直している。

遂にビール腹にも手を出す

やせ型とムキムキ、そしてその間での上下を繰り返していたベールだが、2013年に新たな境地を見出す。それがこちら。

© 2013 Annapurna Productions LLC

『アメリカン・ハッスル』で詐欺師を演じるため、いかにも怪しげな小太りおじさん体型に……しかも、ハゲ頭になり果てた。彼の変貌具合には、ロバート・デ・ニーロに「あの男は誰だ?」と何度も問わせた程だ。

この頃既に40歳を間近に控えていたベールだが、この直後の『エクソダス 神と王』ではムキムキに戻っている。30を超えると肉体改造は困難だと言われているなかで、彼の偉業は多くのおじさんを勇気づけたに違いない。いや、意味が分からなさ過ぎて困惑させただろうか。

それでも一番の魅力は “演技” へのこだわり

©Annapurna Pictures

そして本稿の冒頭で説明したディック・チェイニー役へと繋がる。「史上最強の副大統領」「影の大統領」と呼ばれた元副大統領を演じるにあたり、彼は再び増量。102kgを記録する。

ここまで彼の体重について語ってきておいてなんだが、私は本作の予告編を観て改めて「チャンベー兄貴は体型ではなく、“役” にこだわりを持っているんだ」と思わされた。

見た目だけではなく、話し方やチェイニーが持ち合わせる独特の迫力を再現できているのは、体型などではなく純粋な彼の演技力なのである。

私の感想を肯定するように、ベールはCBSのインタビューで「自分の趣味で20kgも太ったり、頭を剃ったり、眉を脱色したりしたわけではないんだ」と語っている。「チェイニー氏を作り出す上にあたって、自分はメイク担当のキャンバスになっただけなんだ」

「チェイニーはイカれてるよ」とベールは別のインタビューで答えている。「ただ、天才というのはえてしてネジが外れているものだろ?」と続けるベールだが、私たち一般人からすると、彼もネジが外れている天才の1人のように思えてくる。

繰り返しにはなるが『バイス』が公開されるのは2019年4月5日(金)だ。ベールが突き進む最前線を垣間見に、劇場に足を運んでみてはどうだろう。

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そうた

編集を担当。ホラー映画やサスペンス映画など、暗めの映画が好き。『ジャーヘッド』を愛しすぎてHD DVDまで買ったものの、再生機器は未購入。山に籠って薪を割る生活を夢見ている。

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