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幻想的なデートが美しいからこそ切ない『ビール・ストリートの恋人たち』

2019/02/24

© 2018 Annapurna Releasing, LLC. All Rights Reserved.

【ネタばれ無】

2019年2月22日(金)から、『ビール・ストリートの恋人たち』(原題:If Beale Street Could Talk)が公開された。

この映画は、1970年代のニューヨークを生きるカップルを描いたラブストーリーである。無実の罪で留置所にいるファニー(ステファン・ジェームズ)と、彼の子どもを身籠った婚約者ティッシュ(キキ・レイン)の物語だ。

アフリカ系アメリカ人の公民権運動活動家であり、作家のジェームズ・ボールドウィンが1970年代に執筆した同名小説を原作としている。

第89回アカデミー賞で作品賞に輝いた『ムーンライト』の監督であるバリー・ジェンキンスがメガホンを取る最新作である。

『ムーンライト』に魅了された私は、『天使にラブソングを2』でも有名なローリン・ヒルが歌った、Fugeesの「Killing Me Softly With His Song」が流れる予告編を見た。素晴らしい監督に加えて、大好きな曲が流れて私は既にノックアウトされてしまった。

今回は、本作の見所について紹介しようと思う。ネタばれは無いので、これから鑑賞する方も安心して読んで欲しい。

恋人 “たち” のラブストーリー

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本作は、ティッシュとファニーという若いカップルを描き、無実の罪で拘置所にいるファニーの潔白を証明すべく奮闘というストーリーだ。ファニーが逮捕される前と時間軸が混ざりながら、ティッシュの視点で物語が進行する。

恋人 “たち” とは当然ティッシュとファニーの2人も指しているのだが、本作は2人の愛だけを描いている訳ではない。

それは、2人を取り巻くの家族の愛の話でもある。そして1970年代当時、人種差別により不当な扱いを受けた名もなきカップルたちに向けての物語という見方もできる。

注目の女優陣

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主人公のティッシュ役を演じるキキ・レインは、本作が長編映画初出演である。ティッシュのまだ幼い可愛らしさ、一途にファニーを想う強さを表現し、長編初出演とは思えない見事な演技を見せた。

ティッシュを支える、優しく強い母親役を演じたレジーナ・キングは本作でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされている。今作で既にゴールデングローブ賞、助演女優賞を受賞しており、第91回アカデミー賞でも大本命という評判だ。

幻想的なデート

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若いカップルの交わす甘い言葉、2人だけの沈黙の時間。これまでロマンチックなラブストーリーを描いた映画は数あるが、今作は2人のデートシーンが特に印象深い。

『ムーンライト』では青を基調とした色彩が特徴的だったが、本作は黄色や赤の暖色系の色彩が特徴となっている。レトロなファッションと、暖色系の色彩が幻想的なデートシーンを演出している。

2人のデートは本当にロマンチックで、貧しくも幸せに過ごす姿は微笑ましく、羨ましい。そんな2人の姿に魅せられるからこそ、留置されて自由に会えなくなった2人の悲劇も際立って切なくなるのだ。

ニコラス・ブリテルの重厚な音楽も、その映像に華を添える。彼は『ムーンライト』でアカデミー賞作曲賞にノミネートされており、本作でも今年度のアカデミー賞作曲賞にノミネートされている。

日本では2019年4月5日(金)公開予定で、クリスチャン・ベール主演の『ヴァイス』にも作曲家として参加しているブリデルは、今後の活躍が楽しみだ。

感想

本作ではキャストがズームで映され、スクリーンに映るキャストと観客である私たちを見つめているように感じるシーンが特徴的だった。

まるで観客がティッシュになり、ファニーになり、家族の一員になったのかと錯覚する。感情移入をして感じることは、とにかく2人に幸せになってほしい、ということだ。

人種差別がテーマになっているが、重いテーマを突き付けるだけではない。人種を超えた普遍的なラブストーリーとして楽しめる作品に仕上げたバリー・ジェンキンス監督はやはり只者ではない。

最新作を鑑賞したばかりなのに、彼の次作が待ち遠しい。

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