【ネタばれ無】
3月1日(金)より、フランス映画の『天国でまた会おう』(原題:Au revoir là-haut)が日本で公開された。フランスの作家ピエール・ルメートルによる同名作品を原作とした映画で、原作者自身が脚本として参加している。
主演を務めるアルベール・デュポンテルが監督、脚本もこなし、2018年のセザール賞では監督賞、衣装デザイン賞をはじめ、5部門に輝いた。
私は原作小説は未読のため、予告編以外の知識がないままに鑑賞した。ミステリアスなストーリーと仮面に彩られた本作の魅力を紹介しよう。
あらすじ
舞台は第一次世界大戦後のフランス。戦争のせいで仕事も恋人も失ったアルベール(アルベール・デュポンテル)と、彼を助けるために顔の半分を失ったエドゥアール(ナウエル・ペレーズ・ビスカヤート)が、国を相手に詐欺を企てる……。
家族に会いたくないエドゥアールの真意とは、エドゥアールに人生を翻弄されるアルベールの行く末は。先を予想できない展開と、魔法のような映像に惑わされながらも魅了されていく、そんな物語となっている。
先の読めない展開
エドゥアールに翻弄されるアルベールと、エドゥアールの通訳の役割をするルイーズという少女。エドゥアールの家族や戦時の上官プラデル等、癖の強い登場人物達が織りなすストーリはコメディなのかドラマなのか、微妙なバランスになっている。
本作はアルベールの回想という形で物語が進行するのだが、復讐劇を不思議な寓話のように描いていて本当に展開が読めない。帰還兵であり、戦争の被害者である2人の奇妙な友情はどこに向かうのか。悲劇的な境遇にある2人だが、ただ不幸なだけには見えない。
原作小説は世界大戦三部作ということで、一作目は『天国でまた会おう』。エドゥアールの姉マドレーヌが主人公の二作目『炎の色』が2018年に出版されている。
『炎の色』の映像化は予定されていないようだが、是非原作を読んで、まだ出版はされていない三部作の完結編まで追いかけようと思う。
ミステリアスな仮面
エドゥアールが次々と被る独創的な仮面が、本作の見どころの一つだ。とにかく前衛的で奇妙な仮面の数々に魅了される。
仮面をかぶり始めてからのエドゥアールは生き生きとしている。顔を隠すようになってから本当の自分自身を表現できるようになったのか、戦争で顔と心に受けた傷が彼を変えたのかはわからない。
だが、彼の仕草や仮面から覗く青い瞳に吸い込まれるように、観客は心揺さぶられるのだ。魅力的な仮面だけでなく、エドゥアール役を務めたナウエル・ペレーズ・ビスカヤートの見事な演技が合わさり、ミステリアスな仮面の魅力が引き立てられている。
彼は第70回カンヌ国際映画祭でグランプリを獲得した『BPM ビート・パー・ミニット』にて、主役を務めている。差別と闘うエイズ患者のショーン役の評価も高く、これからの活躍が楽しみな俳優だ。
感想
洗練された美的センスに、言葉で多くを語らない姿勢が、流石フランス映画という印象だった。ハリウッドや邦画では見られないような美を追求した芸術性が、フランス映画には見られる。
言葉で多くを語らないだけではなく、本作ではエドゥアールが仮面を被っていることもあり、仮面の中の表情を読むことができない。彼のコミカルな振る舞いの裏に隠された表情とは……。
彼の真意については鑑賞した人によって意見は分かれるだろう。エドゥアールの通訳であるルイーズにしても、考えれば考えるほどに新たな考えが思い浮かぶ。
仮面の下に隠れた顔が気になるように、本作はストーリーにもミステリアスな魅力に満ちている。再度鑑賞することできっと新しい発見ができるだろう。次は少し時間を空けてからもう一度観たいと思える作品だった。