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『フレンチ・ディスパッチ』癖が強すぎる監督が好き放題に作った贅沢な作品

© Searchlight Pictures

【ネタばれ無】

ウェス・アンダーソン監督の新作『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』(原題:The French Dispatch of the Liberty, Kansas Evening Sun)が、2022年1月28日から日本で公開された。

ウェス・アンダーソン監督の記念すべき長編10作目は、フランスにある架空の町アンニュイ・シュール・ブラゼで刊行している雑誌「フレンチ・ディスパッチ」の最終号とその裏側を映像化した、という設定の作品となっている。

ジャンルとしてはシュールなドタバタコメディだが、本作を簡単に説明すると、「超おしゃれなパルプフィクション」と言えば伝わりやすいだろうか。

今回は相変わらずウェス節が炸裂しまくっている本作を紹介しよう。

あらすじ

1975年、アメリカの地方紙「カンザス・イブニング・サン」のフランス版雑誌「フレンチ・ディスパッチ」は世界50か国、50万人の読者を抱える人気雑誌だった。

編集長アーサー・ハウ一ツァー・Jrが急死したことで、彼の遺言に従い雑誌が廃刊することとなる。

アンニュイ・シュール・ブラゼの街並みと歴史が紹介される、巻頭の『サイクリングレポーター』から始まり、殺人で服役している天才画家と看守の物語である『確固たる名作』、学生運動のリーダー達の記録である『宣言書の改訂』、美食家の警察署長の食事に招かれた記者が事件に巻き込まれる『警察署長の食事室』という3つのストーリーが綴られた、「フレンチ・ディスパッチ」の最終号が映像で描かれる。

奇妙な演出

ウェス・アンダーソン作品の特徴といえば、シンメトリーとパステル調の絶妙な色彩感覚が挙げられる。可愛らしく、シュール、少しグロテスクな世界観で繰り広げられる寓話的なストーリーは、ハマってしまうと抜け出せない沼である。

他の映画監督では見られない世界観を作り上げる監督だが、本作では彼が本当に好き放題している作品だ。視覚面ではモノクロやカラー、アスペクト比も自由自在に移り変わり、アニメーションに切り替わるシーンまで見られる。古き良きフランス映画のテイストもあれば、フィルム・ノワールの雰囲気まで詰め込まれているが、不思議とすべての調和が取れている。

他にも面白い演出は盛りだくさんだが、私が一番笑ったのは、『確固たる名作』における、画家モーゼスの11年の時間経過を表現するシーンだ。映像作品では、同じ役でも年月の経過で演じる俳優が変わることがよくある。作中での俳優の交代は、時に違和感を拭えないこともある。しかし、ウェス・アンダーソンにかかれば、そんなシーンまでユーモアたっぷりな力技を見せてくれる。

監督の見事で自由な手腕に、あなたの頭の中でも「その発想はなかった」という言葉が何度も駆け巡ることだろう。

贅沢なキャスト

本作ではウェス・アンダーソン作品常連のビル・マーレイ、オーウェン・ウィルソン、ティルダ・スウィントン、マチュー・アマルリックを始め、初参加のベニチオ・デル・トロ、ティモシー・シャラメ、ジェフリー・ライトなど、主役級の俳優がこれでもかと出演している。

癖の強いキャラクター達を演じる俳優陣は、見事な世界観を作り上げている。

また、シアーシャ・ローナンやウィレム・デフォー、クリストフ・ヴァルツなどの名優も端役で出演している。メインキャスト以外の豪華な顔ぶれを探すのも、本作の楽しみの一つだ。

あなたはどのストーリーがお気に入り?

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本作は短いレポートと3つの短編、計4つの物語で構成されていると多くのメディアで紹介されている。しかし『フレンチ・ディスパッチ最終号の制作過程』も加えた5つの物語が本作の構成であるともいえるだろう。

どの物語も魅力的で、観る人によって好みも変わるものだ。本作鑑賞後には「どのストーリーが好きか」の感想に花が咲くことだろう。私は1人で観に行ったから、その話ができずにうずうずしている。

ちなみに、私は『確固たる名作』がお気に入りだ。服役中の天才画家モーゼスを演じるベニチオ・デル・トロ、看守のシモーヌを演じたレア・セドゥ、画商のカダージオのエイドリアン・ブロディと完璧な配役。ストーリーの面白さやオチの秀逸さと、見どころは満載だ。何より、レア・セドゥの氷のような冷たい目線から伝わる情熱に痺れたのは私だけではないだろう。

まとめ

本作は完全に好き嫌いが分かれる作品だろう。多すぎる情報量や、癖の強すぎる演出にキャラクター、難解なセリフ回しなど、苦手な人は観ていて苦痛に感じるかも知れない。だが、難しいことを考えず、ただ美しい映像とその世界観を眺めるだけでも一見の価値がある。

ユニークな色彩の映像や、俳優たちが個性的に化ける素晴らしい演技、世界観を広げる音楽など、すべてが高水準な作品だ。

架空の雑誌であるにも関わらず、エンドロールではノスタルジーを感じさせられる。もっと『フレンチ・ディスパッチ』の世界に浸っていたい。そんな世界を作り上げるウェス・アンダーソンの次回作が楽しみでならない。

今後のウェス・アンダーソン監督について

ウェス・アンダーソン監督の次回作と次々回作についての情報もお知らせしよう。

次回作『Asteroid City』が既に撮影を終えている。ストーリーはまだ明かされていないが、ヨーロッパを舞台としたラブストーリーであると噂されている。

キャストはウェス・アンダーソン作品常連である、ビル・マーレイ、ティルダ・スウィントン、リーヴ・シュライバー、エイドリアン・ブロディなどが出演している。

また、『犬ヶ島』で声優として出演したスカーレット・ヨハンソンがウェス・アンダーソンの実写作品で初出演を務めるとのことだ。マーゴット・ロビーにトム・ハンクス、マット・ディロンも初出演組として参加する。

さらに次々回作『The Wonderful Story of Henry Sugar』が現在撮影中である。

イギリスの作家ロアルド・ダールの短編集『奇才ヘンリーシュガーの物語』を実写化する作品で、1日も働いたことがないギャンブル好きな富豪のヘンリー・シュガーをベネディクト・カンバーバッチが演じる。

他にもレイフ・ファインズやベン・キングズレー、デヴ・パテルも出演が決まっている。本作はNetflixで配信予定となっている。

ウェス・アンダーソンの世界で、豪華キャストがどのようなキャラクターで登場するのか。今後も見逃せない。

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