コラム

映画『千年女優』 最後の台詞に学ぶ女心

2020/06/20

© 2003 Go Fish Pictures. All Rights Reserved.

【ネタばれ有】

「女心と秋の空」という言葉があるように、女心というものは掴みどころがなく難しい。男である私にとって、女心というものは宇宙よりも未知の存在である。

そもそも、異性の気持ちが簡単にわかるのであれば「女心」と「男心」という言葉は生まれていないだろう。

性別のことを考慮しなくとも、他人の心をすべて知ることは不可能だ。だから、女心がわからない男性を厳しく非難する風潮に私は抗いたい。

しかし、この世には女心を代弁することができる男性も存在しているようだ。今回は女心の表現に感銘を受けた作品を紹介しよう。

2002年に公開された『千年女優』は、今敏監督によるオリジナルアニメーション映画だ。

往年の大女優、藤原千代子が自分自身の過去を語るのだが、それは現実と映画が入り混じったものになっていき……といったあらすじになっている。

現実と虚構を織り交ぜる巧妙なストーリー運びに加え、独特な演出で観客を引き込む今敏監督の手腕はさすがとしか言いようがない。

私はこの作品がお気に入りである。そして、女心についての学びを得ることが出来たため、読者の方々と学びを共有していきたい。

自転車の少女

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本作の話の前に、印象的なエピソードを紹介しよう。女心といえば、教習所の教官から聞いた印象深い話を思い出す。

ある日教官は、ドラッグクイーンの教習生と路上教習をしていた際に、自転車の2人乗りをしている中学生の男女を見かけた。女の子が自転車を漕いで男の子が後ろに座っていた。

その時、教官は何故女の子が自転車を漕いでいるのか、男の子なら女の子を後ろに乗せてかっこつけようとするもんじゃないかと疑問に思い、何気なくそれを口に出した。

すると、ドラッグクイーンの教習生は女心がわかっていない、と呆れながら口にした。

女の子は、男の子に重たいって言われたくないの。

引用:教習中のドラッグクイーン

そんな話を聴いた私は、「女心すげえ」と驚嘆したことを覚えている。

女心をくすぐる鍵の君

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すこし長い前置きになってしまったが、『千年女優』の話に入ろう。

主人公の千代子が恋をする「鍵の君」役を務めた山寺宏一は、日本を代表するイケボ声優だ。良い声というのは、女心をくすぐる主要な要素の一つだろう。その時点で女心をくすぐる準備は万端と言っても過言ではない。

他に、女心をくすぐれるのはどんな男性だろうか。優れた容姿や圧倒的な財力、海のような包容力等、様々な要素が考えられる。いや、これは男女問わずモテる人の特徴でもあるだろう。

そしてモテる人が持つ最大の要素を忘れてはいけない。それは “ミステリアス” という要素だ。どこか謎めいている人は、もっとその人を知りたいという好奇心を刺激する。その好奇心が恋心にすり替わることが、ミステリアスな人がモテるトリックではないかと私は考えている。

鍵の君は最高にミステリアスな人物だ。観客には顔もわからないし、彼についての情報がほとんどないのだ。しかし、ミステリアスな彼が粋な台詞を残す。

満月は次の日から欠けてしまう。14日目の月にはまだ明日がある。明日という希望が。

引用:鍵の君

山寺宏一の声で、ミステリアスな人物にこんな台詞を吐かれたら、忘れられる訳がないのだ。

千代子は彼から預かった鍵を返すために、人生を掛けて彼を追いかけ続けることとなる。

女心の複雑さ

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人生を懸けて1人の異性を追いかけ続けるというのは、簡単なことではない。行方も消息もわからないのなら尚更だ。

真偽のわからない手がかりを基に千代子は鍵の君を探し続けるものの、鍵を失くすという悲劇の末に、追いかけるのをやめてしまう。

どこまでも会いに行くと願った「鍵の君」を探しながらも、それをやめてしまった本当の理由を千代子は零すのだ。

あの人に老いた姿を見られるのが嫌だった。

引用:千代子

なんと切ない女心だろう。そんな儚くも切実な思いを聞けば、諦めたことを責める人間などいないだろう。女心とは奥深く、その奥深さが物語に味を持たせている。

そう感動をして油断していた私は、最期の台詞で再び驚愕することになる。

最期の台詞

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この物語は衝撃的な台詞で締めくくられる。

だって私、あの人を追いかけてる私が好きなんだもの。

引用:千代子

藤原千代子はどこまでも “恋に恋する乙女” だったのだ。それをたった1行の台詞で表現してしまうとは恐れ入る。老いた姿を見られるのが嫌という言葉も、もちろん真実だろう。

女心とは、いつまでも綺麗でいたい、一番輝いている瞬間を見てもらいたい、自分のことを誰よりも大切に思ってほしい、という考えが土台になっている。そして、その気持ちを直接表現はせずに、言葉の裏に隠してしまうのだ。

隠した本心を察することができない故に、世の男性は翻弄され続けている。

さて、ここまで女心について不肖ながら語ったものの、これが正しいのかは永遠にわからない。何故なら私も、本作の監督も脚本家も全員男性だ。

女性達に「いや、女心はこんなものじゃない」と言われてしまえば、私は従う他に選択肢は無いのだ。

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