【ネタばれ無】
1960年代前半、ル・マンで圧倒的な速さを誇ったフェラーリに、アメ車の代名詞であるフォードが勝負を挑んだ。絶対王者に打ち勝つ挑戦者達のドラマを描いた大注目の映画『フォードvsフェラーリ』(原題:Ford v Ferrari)がアメリカ、カナダで2019年11月15日(金)から公開された。
カメレオン俳優のクリスチャン・ベールと、万能俳優マット・デイモンが共演した本作は、全米で初登場1位を記録し好調な滑り出しを見せている。
強者への挑戦、レース、友情、と胸が熱くならないはずがない本作は、TIFF(トロント国際映画祭)でも評判がすこぶる良かった。
TIFFでのチケットレースに破れた私が、最も公開を待ち侘びていた作品だ。カナダでは日本より早く封切りとなったので、日本公開より先に鑑賞して胸が熱くなりまくった私が本作を紹介しよう。

あらすじ

1963年、フォードはフェラーリの買収に失敗し屈辱を受けた。フェラーリの仕打ちに激怒したフォードは、多額の資金を投入してル・マンでの優勝を目指す。
当時、絶対王者として連覇を果たしていたフェラーリを打ち負かす命を受けたエンジニアのキャロル・シェルビー(マット・デイモン)は、ケン・マイルズ(クリスチャン・ベール)と共に絶対王者のフェラーリに挑む。そして、運命を掛けた1966年のル・マン24時間レースが始まる……。
ル・マン24時間レースとは?
そもそもル・マンとは、フランスのル・マン市のサルト・サーキットで毎年6月に開催される24時間耐久レースだ。1周約13.6㎞のロングコースを24時間走り続け、最も周回数を重ねたマシンが優勝となる。複数のドライバーが交代しながら繰り広げられる過酷なレースであり、優勝チームは比類ない栄誉を手にすることができる。F1モナコGP、インディ500と並んで「世界三大レース」と称されている。
直近では2019年度はトヨタが優勝を飾っており、2018年度から見事に2連覇を果たしている。周回数は388周、走行距離は5286.36㎞。平均時速は220.1㎞/hで、最高速度はフリープラクティス(※)で342.3㎞/hを記録した。
※フリープラクティス:予選前に行われる練習走行のこと。
ちなみにこれまでの最高周回数は2010年のアウディで、周回数は397周、走行距離は5410.71㎞という驚異的な記録を残した。
ガンガン上がる回転数

本作の見どころは、やはり大迫力のレースシーンだ。とてつもない臨場感で繰り広げられるレースシーンのスピード感やチームの駆け引きはもちろんのこと、テンションの高いクリスチャン・ベールを楽しむこともできる。レースでの最大の見せ場であるオーバーテイク(※)は、手に汗握る緊張感に息を飲む。
※オーバーテイク:レースにおいて、前の車を後続車が追い越すこと。
車内からの目線やドライバーの顔、そしてクラッチ操作にアクセルを踏み込む足元等、多彩なカメラワークはモータースポーツファンを唸らせるだろう。
そして本作では、エンジンの回転数が本作の大きなカギとなる。回転数が上がっていくにつれて大きく唸りを上げるエンジン音に、あなたの胸もガンガン熱くなっていくだろう。
人間臭いキャラクター達

破天荒な頑固者のケン・マイルスは、気性が荒く一筋縄ではいかない人物だ。遠慮のない物言いでトラブルも起こすが、ドライビングセンスや車への理解は抜群。そして家族に見せる顔は優しく、レーサーとしてだけでなくオイルまみれで働く姿もなんとも魅力的だ。
熱血カーデザイナーのキャロル・シェルビーは、心臓病で現役を引退した元レーサーだ。シェルビー・アメリカンというチームを率いてレーシングカーの開発からレースまでを担当している。シェルビー・アメリカンの代表でありながらフォードのエンジン供給を受けているため、中間管理職のような役回りをしている。
そんな彼らも企業と関わる人間だ。単にレースに集中するだけという訳にはいかない。フォードの意向に対する葛藤等、社会人としての哀愁を感じられる。
彼らだけでなく、ケン・マイルスの家族や時のフォード社長、ヘンリー・フォード2世、フォードの社員やシェルビー・アメリカンのエンジニア達。登場するキャラクター達が悉く人間臭く描かれている。社会人なら誰でも共感できるであろう人間ドラマが繰り広げられるので、レースシーン以外も目が離せない。
本作はIMAXがおすすめ
私はカナダで「UltraAVX」という上映システムの劇場で本作を鑑賞した。通常の劇場より大型のスクリーン、そして高音質のサウンドが楽しめる「IMAX」に似た上映システムだ。
本作の見どころであるレースシーンの臨場感、そして腹にまで響くエンジン音を最大限に堪能するためには、少し高い料金を払ってでも「UltraAVX」の劇場へ足を運んで大正解だった。
ギアチェンジとアクセルと共に高まるエンジンの回転数とその音を体中で感じることで、レースシーンをより一層楽しむことができる。
ル・マンに掛ける男達の意地と、ケン・マイルスの夫婦愛に親子愛。企業ドラマであり、友情も描き、そして大迫力のレース。様々な要素を詰め込んでいるが、レースを主軸にとてもバランスが良くまとまっている作品だ。
モータースポーツファンも、そうでない方も胸を熱くなること間違いなし、そして彼らの熱き姿に涙が零れ落ちる。2020年1月10日(金)から日本で上映されので、大型スクリーンと大音響の中で楽しんでいただきたい。
