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バイオリンの音色に心揺さぶられる 映画『The Song of Names』

2019/10/29

©TORONTO FILM FESTIVAL

【ネタばれ無】

『海の上のピアニスト』のティム・ロスと『クローサー』のクライグ・オーウェンが共演する映画『The Song of Names(原題)』が、カナダとハンガリーの合作で制作された。

本作はイギリスのクラシック音楽研究家兼作家のノーマン・レブレヒトによる同名小説を原作としている。失踪したバイオリニストを探すサスペンスなのだが、推理をするというよりも約半世紀にも渡る切ないストーリーを味わえる作品である。

そして、鳥肌ものの音楽にも注目だ。『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズや『セブン』の作曲で知られるハワード・ショアが本作の音楽を彩る。バイオリンの美しく時に激しく切ない旋律に心が揺れ動かされる。

2019年12月25日(水)からアメリカで公開が始まる予定の本作を、TIFF(トロント国際映画祭)で一足先に鑑賞した私が本作を紹介しよう。

あらすじ

1951年、ポーランド出身の天才バイオリニスト、ドヴィドル・ラポポートは彼の初公演に姿を現さなかった。ドヴィドルの一番の親友であり兄弟のように育ったマーティン・シモンズは、彼が来ない劇場で呆然としていた。

35年後、音楽コンクールの審査員を務めているマーティンは、ドヴィドルを彷彿とさせる演奏と出会う。その演奏を聞いたことをきっかけに、彼は失踪したドヴィドルを探し始める……。

バイオリンの音色

ぞっとするほど美しいバイオリンの音色は、本作での一番の注目点だ。『オーケストラ!』や『チキンとプラム 〜あるバイオリン弾き、最後の夢〜』等、バイオリンの音色が印象的な映画は名作揃いだ。

本作の主演であるティム・ロスの代表作『海の上のピアニスト』や、ジェフリー・ラッシュの『シャイン』等、心を揺さぶる音楽の力は言葉を超えた感動を呼び起こす。バイオリンもピアノも詳しくない私だが、それでも美しい音楽は誰が聴いても美しいのだ。

本作のドヴィドゥルが奏でるバイオリンの音色は、素人の私が聴いても鳥肌が止まらない程に美しい旋律だった。バイオリンシーンだけでも本作を鑑賞する価値は十分にある。

映画等で “天才” 音楽家が描かれるが、いつも素人が聴いても天才的と思わせるような音楽をよく表現できるものだ感心させられる。本作ではドヴィドルの幼少期を演じたルーク・ドイルの好演により、余計に天才味に説得力を持たせている。

先程掲載したトレーラーが公開されたのはTIFFが終わってから。実は、TIFFでは別バージョンのトレーラーが流されていた。

こちらのトレーラーからは全くストーリーが分からないが、このバイオリンの音色に魅かれた方はこの作品の公開が楽しみになるだろう。

過去と現在を行き来するストーリー

本作は、ドヴィドルとマーティンが出会う1930年代とマーティンがドヴィドルを探し始める1980年代を行き来しながらストーリーが進行する。

第二次世界大戦、そしてドヴィドルの出身地であるポーランド。勘の良い方なら戦時中の悲劇を思い浮かべるのではないだろうか。そう、本作はナチスによるホロコースト(※)も扱っている。

※ホロコーストとは、ナチスがユダヤ人に対して行った大量虐殺。ヒトラーが首相に就任した1933年から1945年まで続き、約600万人ものユダヤ人が犠牲になったと言われている。

ドヴィドルはバイオリンの才能により、ロンドンのシモンズ家に預けられることとなる。そこでマーティンと共に育つことになるのだ。親元を離れてロンドンで暮らすドヴィドルと、歴史的な悲劇がどう関わるのかは鑑賞して確認していただきたい。

タイトルの意味は……

photo by wakame

私はこの作品を勝手に「曲の名は」という邦題を付けて読んでいたのだが、決して隕石が降ってきたり、謎の曲を探すストーリーではないことを伝えておこう。

そもそも “names” と複数形であることを無視したこのアホな邦題はすぐさま忘れていただきたい。

本作のタイトルは、この物語の鍵となっている。タイトルの意味を明かしてしまうと盛大なネタばれになってしまうので、ここでは控えておこう。しかし、本作を鑑賞してこのタイトルの意味を理解した時、あなたはきっと胸が苦しくなるだろう。

まとめ

気になることを匂わせながら、ネタばれをしないために中途半端な紹介になってしまい申し訳ない。ただ、本作の終盤について明かしてしまうと、楽しみもなくなってしまう。賛否が別れそうなラストについて、早く誰かと語らいたいものだ。

邦訳されてはいないが、本作に興味があって英語に自信のある方は原作小説で予習をするのもいいかもしれない。イギリスの文学賞である、コスタ賞を受賞している原作小説は評価が高いようだ。

また、本作の日本公開は未定なので、そもそも日本で劇場公開がされるかもわからない。ここまで興味を煽る記事を書けば、日本公開に向けての一助になるのではないかという私の企みを込めていることを記しておこう。

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