告白しよう。私はこの映画を観る気がまるで無かった。
それでも私が『映画刀剣乱舞』を観に行ったのは、彼女に無理やり連れて行かれたからに他ならない。
2019年1月18日(金)、公開日初日に劇場へと足を運んだ筆者は、嬉しそうに何かを話している女性と、ポカンとした顔でそれを聞く男性のカップルを何組か見かけた。察するに、私と同じ状況なのだろう。
私の脳裏には嫌な記憶が蘇る。
コッテコテの恋愛映画に連れて行かれ、「キュンキュンした~」と楽しそうにする女の子の隣で、まるで『2001年:宇宙の旅』でも観終わったかのような顔をする私。高校生だった私にトラウマを植え付けるには十分すぎる出来事だった。
コンテンツに対する知識や熱量に大きな差がある場合に生じてしまう悲しい溝が、私と彼女の間にも生じんとしていた。
冒頭から置いてきぼりを食らったものの

映画が始まって1分も経たないうちに、私は置いてきぼりを食らう。
映画のプロローグとして「映画泥棒」をもじったコントが始まるのだが、キャラクターの設定を何も知らない私は笑いどころ――いや、萌えポイントと言うべきか――が全く分からなかった。
劇場は黄色い声援で包まれていたが、私は口をあんぐり開けることしかできなかった。
そして本編が始まり、「刀剣男子」なるものの説明が為される。
彼らは名刀が具現化したもの。ふむ。私の寛容さが試されているとしか思えない。ここで突っ込んでいては身が持たないと思い、洋画ばかり観てきた私にとっては全く慣れない設定を飲み込んだ。
映画を観終わった今振り返ってみると、全く予備知識の無かった私が置いてきぼりを食らったのはこの冒頭の部分だけだった。この洗礼を受けた先に待っていたのは、上質な「歴史改変もの」のエンタメ映画だったのだ。
本質は誰もがとっかかりやすい歴史改変

美しすぎる容姿の刀剣男子たちと2次元から飛び出してきたような派手な衣装を見て、「どうせオタクコンテンツでしょ?」と手を引いてしまう人も多いかと思う。
正直なところ、私だって観る前はそう思っていた。
しかしビジュアルが派手なだけで、映画の本質は「織田信長が本能寺で死ななかったらどうなるか」というテーマを扱った歴史改変ものだ。
若い時分、戦国時代に熱を上げた方は多いだろう。そして「もしあの時……」と、もうひとつの歴史に思いを馳せた方もいるはずだ。
この映画は可愛い皮を被ってこそいるが、そんな歴史上のifを掘り下げたロマン溢れる作品となっている。
なんだかんだ推しが見つかる

『映画刀剣乱舞』のストーリーを彩るのは、総勢8名(+α)の刀剣男子たちだ。
彼らの衣装は原作寄りのデザインだが、これが意外にも主な舞台となる戦国時代に合っている。衣装さんのセンスの賜物だろう。
8名のキャラはリーダー気質、ツンデレ、おっさん、飲んだくれなど色とりどりなので、大抵の人なら推しを見つけることができるはずだ。
ちなみに私の推しは日本号だ。もう日本号しかいない。上司か先輩に日本号様がいて欲しい。
次回作は殺陣をもっと……!
本作のストーリーもキャラクターも楽しんだ私だが、気になったことがひとつだけある。それは殺陣の軽さだ。
私は殺陣と言えば『暴れん坊将軍』や『鬼平犯科帳』などを思い浮かべてしまうのだが、これら往年のチャンバラを知っている身としては、『映画刀剣乱舞』の殺陣は物足りないところがあった。
「これが今風のチャンバラだ!」と言われれば老兵の私は返す言葉が無いのだが、せっかくアクションシーンとしての見せ場も多いのだから、時代劇らしい重厚なチャンバラシーンがあれば……と思った次第である。
この点は、今回稼いだ分で次回上手いことやってもらおう。もう、期待しかしていない。
アニメやゲームの沼が怖い

なんだかんだ『映画刀剣乱舞』を楽しんでしまった以上、避けては通れぬ道がある。それは原作となったゲームやアニメだ。
ゲームはPCでもスマホでも無料でプレイできるし、アニメ版はNetflixなどで観ることができる。私の目の前には『刀剣乱舞』の沼が広がっている。
この構図は、私にとってはアメコミ映画の魅力に通ずるところがあるように思える。アメコミ映画にハマれば原作のコミックも読みたくなるし、関連ゲームを楽しむこともできる。
沼が広がっているというのは、裏を返せばいつまでも楽しめるコンテンツであるということだ。これが魅力でなくて何であるだろう。
ちなみに私は3日でアニメの2期5話まで観てしまった。決してハマってなどいない。観ていたらいつの間にか時間が経っただけだ。
まとめ
私を含め、彼女に無理やり連れて来られた男性諸君が多かったように思える『映画刀剣乱舞』。
だが私が本作を鑑賞した劇場では、上映終了後に嬉しそうにしていた男性が目立っていた。
かくいう私も、「歴史改変ものマジで好き!」「俺は日本号さん!」と、家までの帰り道ずっと彼女に『映画刀剣乱舞』の感想を語ってしまったほどだ。
『映画刀剣乱舞』は、刀剣男子の知識が全くない人を沼へと誘う魔力を持った作品、というのが私の評価だ。
この記事を読んでくださったあなたも、食わず嫌いではもったいない。騙されたと思って、沼に片足を突っ込んでみてはいかがだろうか。
あ、6話が始まった。