【ネタばれ無】
昨年のアカデミー賞は、黒人の人種差別問題を扱った作品の受賞が目立った。『グリーンブック』の作品賞受賞をはじめとして『ビール・ストリートの恋人たち』では、レジーナ・キングが助演女優賞に輝き、スパイク・リー監督の『ブラック・クランズマン』が脚色賞を受賞した。
人種差別問題をテーマに扱った映画は近年、高く評価される傾向にある。そして、今年度の注目作である黒人の人種差別を描いた硬派な実話映画がマイケル・B・ジョーダン、ジェイミー・フォックス、ブリー・ラーソンという、かなりホットなキャストで制作された。
『 黒い司法 0%からの奇跡 』(原題:Just Mercy)はアラバマ州を拠点に活躍するアメリカの弁護士ブライアン・スティーブンソンと、死刑判決を受けたウォルター・マクミリアンの実話を描いた「黒い司法」というノンフィクション小説を元にした作品だ。
2019年12月25日(水)からアメリカで限定公開が始まる本作を、TIFF(トロント国際映画祭)で先んじて鑑賞した私が本作を紹介しよう。
あらすじ
ハーバード大学を卒業した若手弁護士ブライアン・スティーブンソン(マイケル・B・ジョーダン)は、好条件で働くことの出来る仕事には目もくれず、不当に有罪判決を受けた人々を救うために黒人差別が色濃く残る南部で活動を始める。
ブライアンは、18歳の少女を殺害したとして死刑判決を受けたウォルター・マクミリアン(ジェイミー・フォックス)の冤罪を証明するため、エヴァ・アンズリー(ブリー・ラーソン)の協力を得ながら奔走することとなる……。
ブライアン・スティーブンソンとは
ブライアン・スティーブンソンは1959年生まれのアメリカで活躍する弁護士だ。アラバマ州を拠点に、人種差別と戦い続けている。特に18歳未満の子どもの弁護を通じて権利擁護活動を行っており、これまで何人もの囚人を死刑判決から救ってきた。
多くのアフリカ系アメリカ人が冤罪で投獄されているアメリカの司法制度の現実について、TEDで語っているので是非視聴していただきたい。
とても素晴らしいプレゼンテーションで、彼の人となりについてもよく知ることができる。そんな彼を演じるのは、今が旬の若手俳優マイケル・B・ジョーダンだ。
戦う姿が絵になる マイケル・B・ジョーダン
マイケル・B・ジョーダンの出世作は、ロッキーシリーズのスピンオフ作品である『クリード チャンプを継ぐ男』だ。主役のアドニス・クリード役を演じて絶賛を受け、大注目の俳優である。
『クリード』シリーズではボクシングという手段で戦う男を熱演した。リングの上で躍動する彼の筋肉は芸術作品と呼べる程の美しさと、勝利を渇望する不屈の精神力に誰もが熱くなった。
MCUの『ブラックパンサー』では、ヴィランであるキルモンガーを演じた。ワカンダ王国の王位を狙い、高い知性と優れた身体能力を持ってブラックパンサーに挑んだ。
肉弾戦が良く似合う彼だったが、今作ではスーツ姿で法廷を舞台に戦う彼の姿を見ることができる。法廷に立つ姿も様になっており、冷静さの中に熱意を秘めた弁護士を好演している。リングでも法廷でも戦う姿が悉く似合う彼は、今後も様々な役柄で戦い続け観客の心を熱くしてくれるだろう。
助演のキャストも熱い
『Ray/レイ』でオスカーを獲得したジェイミー・フォックスは、コメディからシリアスな役、アクションからミュージカルまで何でもこなすマルチプレイヤーだ。本作では冤罪で死刑宣告を受けた囚人のウォルター・マクミリアンを演じる。死刑囚として6年間を刑務所で過ごした彼の絶望と怒りには胸が痛くなる。
『キャプテン・マーベル』でMCU最強のヒーロー、キャロル・ダンヴァース役のブリー・ラーソンが、ブライアンの支援団体設立を支援するエヴァ・アンズリーを演じる。本作はパワフルなヒーローではなく、ブライアンを支える役割を好演している。
『ストレイト・アウタ・コンプトン』でアイスキューブ役を演じた、オシェア・ジャクソン・Jrも本作に出演している。彼は出番が少ないながらも、重要な役柄を演じているため注目していただきたい。
まとめ
私がTIFFで鑑賞した際、エンディングでは人種を問わず多くの人を涙に誘っていたのが印象的だった。ノンフィクション作品ということが、大きな力を持っていることを実感させられた。
人種差別問題と戦う弁護士と冤罪により死刑判決を受けた囚人を描く、ノンフィクションの本作。比喩やメタファーではなく人種差別問題に真っ向から立ち向かう見応えのある硬派な作品で、今年のオスカーレースでも注目の作品だ。
日本では2020年2月28日に公開予定となっている。間違いなく日本でも大きな話題を呼ぶことだろう。心も目頭も熱くなる本作を楽しみにしていただきたい。