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『グリーンブック』をより楽しむための豆知識

2019/03/04

© Universal Pictures, Participant, and DreamWorks

【ネタばれ無】

第91回アカデミー賞にて、作品賞、脚本賞、助演男優賞の三部門を受賞し、注目が集まっている『グリーンブック』(原題:Green Book)が2019年3月1日(金)から遂に日本で公開された。

本作の舞台は1962年のアメリカ。ニューヨークのナイトクラブの用心棒トニー(ヴィゴ・モーテンセン)は、黒人のピアニスト、ドクター・シャーリー(マハーシャラ・アリ)の運転手としてスカウトされる。

人種も性格も違う2人は、差別が色濃い南部へグリーンブックを頼りにツアーへ向かう……。

凸凹コンビのツアーがユーモアたっぷりに描かれ、不意に涙を誘われる秀作である。今回は本作をを更に楽しむための豆知識を紹介しよう。

グリーンブックとは

© Universal Pictures, Participant, and DreamWorks

本作のタイトルになっている「グリーン・ブック」とは、「The Negro Motorist Green Book」という正式名称で、「黒人ドライバーのためのグリーン・ブック」である。

1936年から1966年まで毎年改訂され発行され、著者のヴィクター・H・グリーンの名前を由来としている。

ジム・クロウ法という人種隔離政策の時代に使用されたものであり、黒人であることを理由に宿泊やレストランの利用拒否、ガソリンスタンドでの給油拒否等が行われていた。

そんな差別を受けていた黒人旅行者のために、黒人でも通常のサービスが受けられる宿泊施設、レストラン、ガソリンスタンド等が利用できる場所を記したガイドブックとして、グリーン・ブックは発行された。

1964年に公民権法が成立したことを機に人種差別が禁止され、グリーン・ブックはその役目を終えた。

ジム・クロウ法

ジム・クロウ法とは、1876年から1964年にアメリカ南部に存在した、人種差別法の総称だ。

公共交通機関の席が白人用と有色人種用に分けられ、白人と黒人の結婚が禁止された州もあった。白人と有色人種が同じ空間で食事ができるレストランは違法になるケースもあり、ジム・クロウ法下のアメリカ南部では差別が日常的だった。作品を鑑賞すると、当時のの不当な差別の様子を垣間見ることができる。

ジム・クロウとはミンストレル・ショー(minstrel show)という、顔を黒く塗った白人によって演じられた、踊りや音楽、寸劇のエンターテイメントで、1828年のヒット曲「ジャンプ・ジム・クロウ」が由来となっている。

当時のアメリカ南部は農業が主産業であり、労働力である黒人奴隷の解放に反対し、差別が根強く残っていた。1964年の公民権法成立の際に、ジム・クロウ法は廃止された。

ドクター・シャーリー

© Universal Pictures, Participant, and DreamWorks

ピアニストのドン・シャーリーは、音楽、心理学、典礼芸術の分野で博士号を持っており、あだ名として「ドクター・シャーリー」と呼ばれていた。彼は高い教養を持ち、一時は音楽から離れて心理学者として活躍していた時期もあった。

音楽業界に戻り、1961年に発売したシングル「Water boy」はBillborad Hot 100で40位を獲得し、14週に渡ってチャートにランクインした。同時期にデューク・エリントンと親交を深めている。

彼を演じたマハーシャラ・アリが2年ぶりに二度目のアカデミー賞助演男優賞を受賞した。前回受賞したのはバリー・ジェンキンス監督の『ムーンライト』で、彼の出演時間は僅か24分だった。今作では彼の演技を思う存分に楽しむことができる。

俳優としてのトニー・リップ

ヴィゴ・モーテンセンが演じたトニー・リップだが、実は彼は俳優としても活動をしていた。それも、なんと映画デビューはあの『ゴッドファーザー』である。

冒頭の結婚式のゲストとして出演しているようだが、残念ながらクレジットはされておらず、私は彼の姿を確認できなかった。

しかし、ギャング映画の名作『グッドフェローズ』にて彼の姿を確認することができた。“Frankie the Wop” という役名がエンドロールでも確認でき、端役ではあったがトニー・リップの姿が確認できた。

気になる方は、是非目を凝らして彼の姿を探してみてはいかがだろうか。

© Universal Pictures, Participant, and DreamWorks

感想

本作のアカデミー作品賞受賞に関しては賛否両論の意見が上がっている。人種差別からの解放に尽力した白人という描かれ方が陳腐であるという意見や、実際のトニーとシャーリーの関係についても疑問が持ち上がっている。

しかし、この作品を鑑賞した私の感想はシンプルで「良い映画を観た」という一言に尽きる。正反対の2人のロードムービーに音楽が合わさるとやはり魅力的だ。

ヴィゴ・モーテンセンの見事なイタリア訛り、『ムーンライト』とは全く異なる演技を見せたマハーシャラ・アリ。そんな2人の演技力も合わさり、人種差別というテーマだけでなく、笑って泣けるコメディ映画として、誰にでもおすすめできる作品だ。

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