【微ネタばれ有】
ナタリー・ポートマンは1994年に『レオン』のマチルダ役として、若干13歳で映画デビューを果たした。彼女は圧倒的な美貌と確かな演技力で『スターウォーズ』シリーズや『クローサー』等の話題作に出演。『ブラック・スワン』ではオスカーに輝き、世界的な大女優として人気を博している。
そんな彼女の最新作『Lucy in the Sky』が2019年10月4日(金)からアメリカで公開された。本作は実在の宇宙飛行士リサ・ノワックの事件がベースとなっている。
TIFF(トロント国際映画祭)で初公開され、ある一点が話題となった作品だ。それは、作中にオムツが登場しなかったことだ。
日本公開は未定だが、9月12日にTIFFで鑑賞した私が本作について紹介しよう。
あらすじ
宇宙飛行士のルーシー・コーラは宇宙の壮大さを体感したことで、地球に戻ってからはすべてが矮小に感じられる感覚に囚われていた。彼女は優しい夫との生活にも魅力を感じなくなる。
もう一度宇宙へ行くため宇宙飛行士の訓練を続ける中、ルーシーは同僚のマークと不倫関係を持ってしまう。マークが他の訓練生にも手を出していることを知り、ルーシーはある事件を起こすこととなる……。
宇宙飛行士リサ・ノワックの事件
2007年2月5日、宇宙飛行士のリサ・ノワックはオーランド国際空港で恋敵のコリーン・シップマンに催涙スプレーを吹きかけて襲撃し、暴行と誘拐未遂で逮捕された。同僚のウィリアム・オーフェリンと不倫関係にあった彼女は、彼とコリーンの関係を疑い犯行に及んだ。コリーンは事件の2ヶ月前からリサにストーキングされていたと証言している。
現役の宇宙飛行士が起こした事件であることやNASA内の三角関係という、お茶の間が沸き立つ要素を持ったニュースだったのだが、更に話題を呼んだ要因がある。
それは、逮捕時にリサ・ノワックがオムツを着用していたことだ。オムツは宇宙飛行士が宇宙での任務の際に着用するもので、テキサス州のヒューストンからフロリダ州のオーランド国際空港まで1500㎞の距離を車で移動する際に、トイレ休憩取らないようにするために使用していた。
リサ・ノワックはこの事件で禁固2日の判決を受け、宇宙飛行士資格を停止された。
オムツが登場しなかった
そんなリサ・ノワックの事件を基にした本作だが、上映後にはオムツが登場しなかったということでTwitter上に不満が噴出した。
この点に関して、ノア・ホーリー監督はロサンゼルス・タイムズ誌にて「その要素はストーリーに合わなかった」とコメントしている。また、LAプレミアでは「彼女は事件の対価を既に支払っている、彼女に再度屈辱を与える必要はない」と語っている。
本作は実際の “事件” にインスパイアされたもので、 “リサ・ノワック” という人物に焦点を当てた物語ではない。ゴシップ的に本作を描くのではなく、架空の人物 “ルーシー・コーラ” の物語として描かれているのだ。
不安定なルーシー・コーラ
宇宙飛行士の一種の燃え尽き症候群を扱った作品かと予想していたが、ルーシーはもう一度宇宙へ行きたいという情熱を失ってはいない。現実への興味を失うほどの執着は、宇宙に恋をした状態といえるだろう。そんな状態で彼女は魅力的な同僚のマークと不倫関係を持ってしまう。
だが正直に言うと、ルーシーの心理状態が不安定過ぎてあまり共感ができない。ルーシーの心理状態を描きたいのか、不倫とそこから繋がる事件を描きたいのか、バランスが取れていない作品といった印象だ。
ルーシーが不安定なだけでなく、ストーリーのバランスも不安定。そして、ルーシーの心理状態を表す演出は、観客を不安定な気持ちにさせる映画だった。
まとめ
私はリサ・ノワックの事件について知らずに本作を鑑賞したため、オムツが登場しないことについては何も思わなかった。上映後にTwitterで騒ぎになっていたため、この事件について調べ、ようやくオムツに行き当たったのだ。しかしここまで話題になるということは、アメリカやカナダではとてもセンセーショナルに報道された事件だったのだろう。
本作では宇宙に魅せられたルーシーが狂気に飲み込まれていく様子を、ナタリー・ポートマンが鬼気迫る演技で表現している。やはり、彼女の演技力、美貌共にハリウッド女優の中でも群を抜いていることを再確認することができた。
タイトルの元となっている、ビートルズの名曲「Lucy In The Sky With Diamonds」も劇中で使用され、宇宙へ心を置いていったルーシーの心理状態を表現していた。宇宙での体験によって現実との乖離が広がっていく様子を描く斬新な演出も見られ、印象的なカットもあった。
しかし、オムツの事ばかり話題になってしまうのも納得できる。ストーリーが面白くないので退屈してしまうのだ。もし、本作がオムツが登場しなかったことを意識させない程に面白ければ、オムツが話題になることはなかっただろう。