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『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』 鑑賞前に必ず御一読下さい

2019/07/27

©Sony Pictures Entertainment/Columbia Pictures

【ネタばれ無】

2019年、映画史に残る傑作が公開された。レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットという大スターの初共演に、マーゴット・ロビー、アル・パチーノと豪華すぎるキャストが参加した本作は、公開前の期待に違わぬ傑作に仕上がっている。

クエンティン・タランティーノ監督の最新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(原題:Once Upon a Time in… Hollywood)が、2019年7月26日(金)からアメリカ、イギリス等で公開が始まった。日本では2019年8月30日(金)より公開される。

本作は、カンヌ国際映画祭のプレミア上映時にタランティーノ監督がSNSで「ネタばれ禁止令」を発している。

確かにネタばれ厳禁な内容であるが、予備知識が無ければ十分に楽しむことのできない作品となっている。逆に言うと、最低限の予備知識さえあれば最高の体験を味わうこととなる。

今回はカナダで一足先に劇場で鑑賞した私が、本作を存分に楽しむために必要な、「シャロン・テートとチャールズ・マンソンの事件」について解説しよう。

あらすじ

©Sony Pictures Entertainment/Columbia Pictures

1969年のハリウッド、落ち目のTVスターのリック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)は、長年の付き合いである付き人でスタントマンのクリフ・ブース(ブラッド・ピット)に支えられながら、再びハリウッドで返り咲こうと奮闘していた。

ある日、映画監督のロマン・ポランスキー(ラファル・ザビエルチャ)と、女優のシャロン・テート(マーゴット・ロビー)がリックの隣に引っ越してくる。そして、運命の1969年8月9日を迎える……。

シャロン・テート殺害事件

©Sony Pictures Entertainment/Columbia Pictures シャロン・テートを演じるマーゴット・ロビー

本作は1960年代に活躍したハリウッド女優、シャロン・テートにまつわる悲惨な事件がモチーフとなっている。

彼女はその美貌で雑誌のカバーガール等を務め、コメディ作品での演技が高く評価されて将来を嘱望されていた。

彼女は1968年の映画『吸血鬼』に出演したことが縁で、同年にロマン・ポランスキー監督と結婚している。ロマン・ポランスキーは、後に『チャイナタウン』や『戦場のピアニスト』等の名作を世に送り出す映画監督だ。

1969年8月9日、シャロン・テートは友人を招き、ハリウッドのシエロドライブにある自宅でパーティをしていた。その日、夫のロマン・ポランスキーはロンドンで脚本の執筆のため不在にしていた。パーティを楽しんでいた彼女たちの元に、スーザン・アトキンスを始めとする、あるカルト教団の信者達がシャロン・テート邸を襲撃した。

妊娠8か月目のシャロン・テートは、ナイフで刺されて亡くなり、玄関には彼女の血で「Pig」と書かれていた。シャロン・テートの元カレであるヘアスタイリストのジェイ・セブリングも含めた5名が、この事件で亡くなっている。

この惨劇は人違いによって起きたもので、首謀者はカルト教団の指導者チャールズ・マンソンという人物だった。

カルト教団の指導者 チャールズ・マンソン

©Sony Pictures Entertainment/Columbia Pictures チャールズ・マンソンを演じるデイモン・ヘリマン

1934年に生まれたチャールズ・マンソンは、父親がいない家庭に生まれた。母親には育児放棄をされ、幼いころに祖父母の元へ預けられる。その後、親戚の家を転々とした彼は9歳で犯罪に手を染め、何度も刑務所への入所を繰り返す。

1967年に釈放された彼は、自身をキリストの復活と称し、家出少女達を集めてLSDと性で彼女たちを洗脳し、「マンソン・ファミリー」と呼ばれるヒッピーのコミューンを作った。

一時期ミュージシャンを目指していた彼は、デビューの機会を与えられなかったために、音楽プロデューサーのテリー・メルチャーを恨んでいた。そして、彼は信者たちにテリー・メルチャーの襲撃を指示する。

そう、テリー・メルチャーが引っ越した後の家に住んでいたのが、ポランスキー夫妻だったのだ。何の罪もない人々が無残に殺されてしまったこの事件に全米は震撼した。

この翌日に、マンソンの信者たちはロサンゼルスに住むラビアンカ夫妻を同様の手口で殺害した。

この残酷な事件の動機は、マンソンの歪んだ思想によるものだった。彼は聖書を独自解釈し、ビートルズの楽曲「ヘルタースケルター」を曲解して、黒人が白人を皆殺しにする戦争が起きると予言した。戦争の末、マンソン率いる集団が黒人達を操り世界の王となる、といった内容のものだ。。

白人と黒人の対立を煽ろうとして、ブラックパンサー(黒人民族主義運動の急進派政治組織)の犯行に見せかけ無差別に殺人を行っていたのだ。

チャールズ・マンソンと信者たち20名は逮捕され、首謀者のチャールズ・マンソンは1971年に死刑を求刑される。しかし、カリフォルニア州で死刑が一時撤廃されたため、終身刑に減刑。2017年、彼はカリフォルニア州ベーカーズフィールドの病院で死去した。

まとめ

©Sony Pictures Entertainment/Columbia Pictures

このあまりにも痛ましい事件が本作の鍵となっている。この記事を読んだなら、劇場へ向かう準備はほとんど整ったと言っていい。後は本作の予告編をしっかりと観ていただくと、準備は完璧だ。

本作はタランティーノ監督の映画愛に溢れた作品となっている。黄金期だった頃のハリウッドへの郷愁を、彼の愛する映画を詰め込んでいる。俳優の演技に監督の手腕、そして唯一無二のストーリーがすべて合わさった極上の映画に仕上がった。

スリラーやコメディ等、サイトによって様々なジャンルで紹介されているが、私が本作を分類するとしたら “ハリウッド映画”と呼ぶのが最も相応しいのではないかと思う。

『パルプフィクション』の監督である彼にしかできないマジックで、心ゆくまで映画に没入することができる。そして鑑賞後には、監督としてだけでなく脚本家としての彼を好きにならずにはいられないだろう。

※蛇足

以前に私は自身の記事で、マーゴット・ロビーを「ショッキングピンクのセーターが宇宙一似合う女性」と称した。しかし本作を鑑賞した後に、私の考えは間違っていたことを痛感した。浅はかだった私の考えをここで訂正させていただこう。

ポスターでも確認できるが、この作品で彼女は黒のセーターを着て登場するシーンがある。その美しさ、可愛さと言ったら言葉で形容できるものではない。そう彼女は「宇宙一ニット生地が似合う女性」なのだ。

この世のすべてのニット生地、セーターに愛された彼女の美貌も楽しみにしていただきたい。

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