コラム

タランティーノらしさって何?『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を100倍楽しむためのタランティーノ映画入門

2019/09/01

© 1992 - Miramax Films.

【ネタばれ無】

映画好きの方なら誰しも「この映画、〇〇監督っぽいな~」と感じた経験が有るはずだ。

J・J・エイブラムス監督なら “レンズフレア” 、マイケル・ベイ監督なら “爆発” 、クリストファー・ノーラン監督なら “女性キャラがヤバい” などなど、特徴が分かりやすい映画監督は多く存在する。

だがそういった特徴は、その監督の作品を何作も追ってようやく掴めるものだ。そしてこだわりの強い監督であればあるほど細かな描写に "らしさ" が現れるので、特徴が伝わりづらいこともある。

最新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』が2019年8月30日(金)から日本でも公開されたクエンティン・タランティーノ監督は、まさに「細かな描写へのこだわり」の塊のようなクリエイターだ。

細か過ぎて伝わらない……ということは無いのだが、実際何がタランティーノらしいのかいまいち掴めていないという方も居ることだろう。

ということで今回は、「タランティーノらしさ」が一体どういうものなのか、今一度振り返ってみよう。


雑談が長い

© 1992 - Miramax Films.

「タランティーノらしさ」を語る上で外せないのが、雑談の長さだ。

登場人物たちは何かにつけて雑談を楽しみがちで、しかもやけに長い。雑談の内容もストーリーに関係無いことが多いので、会話シーンを「冗長な演出だ」と煙たがる声が出るのも分からなくはない。

ただ、タランティーノの雑談は決して無駄な演出ではない。

独特な言葉遣いや突飛な主張からは、登場人物たちがそれぞれどのような思考回路を持っているのかが自然と伝わって来る。言うなれば、登場人物たちの "素" が、雑談シーンに詰め込まれているのだ。

また、タランティーノ映画では、長い会話の後には大抵バイオレンスなシーンが用意されている、ということも忘れてはいけない。

雑談という一見何の意味も成さないシーンは、観客にとって自身の日常と紐付けやすい。しかし徐々に会話の緊張感が高まっていく。自身の日常に近かったはずの雑談は、いつの間にか血みどろな非日常への入口となるのだ。

暴力賛美

© 2003 Miramax Films.

タランティーノ監督が雑談という入り口を用意してでも観客を暴力シーンに引きずり込もうとするのは、暴力シーンに力を入れているからに他ならない。

ビルを殺すために彼の手下を殺し続けるザ・ブライド(『キル・ビル』シリーズ)、ナチを殺し続けるユダヤ系アメリカ兵(『イングロリアス・バスターズ』)、生き別れた妻を助けるために農園領主を殺そうとする黒人(『ジャンゴ 繋がれざる者』)……過去作を振り返ってみても、タランティーノの作品が「暴力」と不可分であることは明白だ。

タランティーノ監督自身、「暴力(描写)が一番見ていて楽しい」と発言していたことからも、彼の暴力描写に対するこだわりが伺い知ることができる。

タランティーノ監督のこだわりを暴力賛美と表現するとネガティブな印象を受けるだろうが、そこは彼も映像作家だ。リアリスティックな描写とコミカルな描写を使い分け、誰も観たことが無いような映像を作り上げる。

あくまでも物語上の「感情の爆発」を表現する方法として暴力を利用しているのだ。暴力表現の細かなこだわりにこそ、「タランティーノらしさ」が宿っていると言えよう。

入り乱れる時間軸

© 1994 Miramax

もうひとつ「タランティーノらしさ」を挙げるとするならば、映画で語られる物語の時間軸が入り乱れることだろう。

バラバラな時間軸が如何にタランティーノらしいかを示す証拠として、英語で "tarantino" を動詞として使うとき――日本語にすると「タランティーノる」だろうか――の意味を紹介しよう。

あなたがとある出来事を説明しなくてはならないと仮定して欲しい。

普通なら事の起こりから説明するだろうが、あえて「色々な出来事の末、こういうことが起こった」という結果を先に伝えてしまう場合もある。そして、「なぜそのような結果に至ったのか」を後で説明するのだ。

こうして、物語の結末を先に伝え、そこに至るまでの過程を後追いで説明することを「タランティーノる」と言う。

先に挙げたクリストファー・ノーラン監督も、時間軸がバラバラな映画ばかり制作しているが、それでもタランティーノ監督の名が動詞になったのは、映画界においては彼が最も印象的にタランティーノっていたからに他ならない。

まとめ

© 1994 Miramax

他にも、名作映画へのオマージュや足フェチ、やたらとバスルーム(トイレ)のシーンが多いなど、「タランティーノらしさ」を挙げればキリがない。

彼の監督作は何れも「タランティーノらしさ」を詰め込んだような癖の強いものばかりなので、とっつきにくい印象を持っている方も居るだろう。しかし、今回の記事で彼の映画の特徴、そして見どころが少しでも伝われば幸いだ。

そして『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でも「あ、これが『タランティーノらしさ』なのか」とニヤけて貰いたい。

あと「タランティーノる」も流行らせたいので拡散お願いします。

あわせて読みたい

  • この記事を書いた人
  • 最新記事

そうた

編集を担当。ホラー映画やサスペンス映画など、暗めの映画が好き。『ジャーヘッド』を愛しすぎてHD DVDまで買ったものの、再生機器は未購入。山に籠って薪を割る生活を夢見ている。

-コラム
-, , ,

Copyright© Sabot House , 2024 All Rights Reserved.