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意外な形で描かれた実話ラブストーリー インド映画『The Sky Is Pink』

2019/10/08

©RSVP & Roy Kapur Films

【ネタばれ無】

インド映画と聞くと、突如始まるダンスと歌が特徴的で、とにかく楽しい華やかなエンターテイメントというイメージがあるだろう。

だが、 プリヤンカー・チョープラー・ジョナスが主演を務め、2019年10月11日(金)からインド・アメリカで公開される『The Sky Is Pink(原題)』はインド映画のステレオタイプとはかけ離れ、ひいては従来の「実話映画」のイメージからも脱却した映画だ。

本作は先天性の疾患を持ち18歳という若さでこの世を去ってしまった少女アイシャ・チョーダリーと、その家族を描く実話を基にしている。

日本での公開は未定だが、2019年9月13日(金)にTIFF(トロント国際映画祭)で鑑賞した私が、日本公開を祈りつつ本作を紹介しよう。

あらすじ

アディティとその夫ニレンの間には、アイシャという娘がいる。彼女はSCID(Severe Combined Immunodeficiency:重症複合型免疫不全症)という、先天性の疾患を持って生まれてきた。彼女は生後6か月で骨髄移植を受ける。ロンドンでの治療に成功するが、治療の副作用により肺線維症を発症してしまう……。

アイシャ・チョーダリ―の実話

生まれつき疾患を持ったアイシャ・チョーダリ―は、その生い立ちからTEDxPune等の講演で活躍。18歳で亡くなる前日に、彼女が執筆した「My Little Epiphanies」という書籍が出版された。

若くして亡くなってしまった人の悲劇が映画や書籍になることは珍しくないし、フィクションよりも実話の方が説得力があるという向きもあるだろう。

映画の中だけに登場する “キャラクター” ではなく、実世界に存在している人々の物語の方がリアルだし、実話だからこそ胸を打たれるのだ。

しかし、実話を基にした作品は、時に「お涙頂戴」と揶揄されるように、感動の押し売りが見られることがある。話は感動的なのに、それを創作物としての演出が加えられることで、観客が冷めてしまうのだ。

しかし、本作の主役はアイシャではない。彼女の両親が主役なのだ。

25年にも渡るラブストーリー

©RSVP & Roy Kapur Films

あらすじを読んで、本作はアイシャの人生を描いた感動作品だと思うだろう。もちろん、その要素も丁寧に描かれている。しかし、本作の主軸はアディティとニレンのラブストーリーだ。

本作において、アイシャは語り手であると同時に “悪役” を自称している。先天性の疾患を持つということは、疾患を持たずに生まれた子どもよりも子育てに留意することも病院へ行く頻度も高い。生活の中心が治療と子育てになっていくのは自然で、アイシャは自身を「両親の生活を圧迫する "悪役" 」として捉えているのだ。

しかし、アディティとニレンの間のラブストーリーが途絶える訳ではない。それは世の夫婦達にも共通のことだろう。そんな普遍的なラブストーリーを、アイシャを通して描くとは、全く予想外だった。

そしてインド映画の象徴とも言える脈絡のない大勢のダンスシーンや歌も無く、ステレオタイプな「インド映画」とは全く違った作品だ。

上映後に巻き起こるスタンディングオベーション

Photo by wakame

トロント国際映画祭での上映では、涙を誘うエンディングの後に監督、キャストが登場した。観客たちは劇場が割れんばかりのスタンディングオベーションで彼らを迎えた。

質問コーナーが始まっても、司会者が座ることを促すまで観客は立ち上がったままだった。それほどの感動と興奮に包まれた上映だったのだ。

本作でメガホンを取ったショナリ・ボース監督自身も息子を亡くした経験を持っている。本作を制作する上で、アイシャを亡くした家族の気持ちに強く共感したそうだ。

質問コーナーの途中でアイシャの家族も登場し、観客は再びスタンディングオベーションを持って彼らを迎えた。本物のアディティとニレンも本作については満足していると語っていた。

そして何より、2000年の「ミス・ワールド」優勝者である、プリヤンカー・チョープラー・ジョナスの美しさは異次元だった。スクリーンの中の彼女ももちろん美しいのだが、私がトロント国際映画祭で見たセレブの中でも、飛び抜けて美しかった彼女のファンになったことは言うまでもない。

まとめ

『The Sky Is Pink』には突如始まる歌もなければ、不自然なダンスシーンもない。インド映画特有の華やかさを全面にアピールするのではなく、ストーリーで魅せる作品だった。感動作品にありがちな押しつけがましさはなく、ある夫婦の足跡を辿るラブストーリーという形で描くという意外性で、インド映画の新境地を見た感覚だ。

本作で描かれるラブストーリーや家族愛は、国も人種も超える普遍的なものだ。この作品が心に刺さらないはずがない。トロント国際映画祭の観客賞は『Jojo Rabbit』が受賞したが、私は本作に投票した。

ネタばれにならないよう本作の内容に触れなかった部分も多いが、実際に皆さんに見て欲しい。日本の配給会社さん、もしまだ本作の配給が決まっていなければ是非この作品を日本で上映していただきたい。きっと、日本でも絶賛の嵐で迎えられるだろう。

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