コラム

『パッドマン 5億人の女性を救った男』第三者による視点の重要性

2019/06/09

© 2018 SONY PICTURES DIGITAL PRODUCTIONS INC. ALL RIGHTS RESERVED.

【ネタばれ無】

パートナーのために尽くすとはどういうことなのか。愛する妻のためを思う一心で、インドの多くの女性を救った男性がいる。

『パッドマン 5億人の女性を救った男』(原題:Pad Man)は、インドで生理用品の普及に尽力したアルナーチャラム・ムルガナンダム氏の実話を基にしたインド映画だ。

本作の舞台である2001年のインドでは生理用ナプキンが高価で、使い古した布をナプキン代わりに使うことが一般的だった。偏見に晒され困難な中で、安価なナプキンを作るために主人公のラクシュミは立ち上がった。

何故男性である彼がその課題に気が付けたのか。彼の妻に対する思いやりはもちろんだが、“男性” だからその課題に気付けたのではないだろうか。

なかなか触れられないタブー

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男性である私は、生理の苦労を経験したことはない。正直なところ、その話題を口にすることも正直憚られるものだ。女性からその手の仄めかしがあれば理解する程度で、男性からその話をする機会が少ないというのは、私に限った話ではないだろう。

その割にTVでは生理用品のCMがしょっちゅう流れているが、わざわざ話題に出すことでもない。

女性にしても男性にしても、異性特有の悩みについてはあまり触れられないものだ。それだけでなく、女性の年齢や職場の同僚のプライベート等、不用意に触れられないタブーのようなものは周りに多い。

そうした話題に無理に踏み込むことはないが、タブーのような領域に第三者が触れた時、一種の化学反応が期待できるという好例が、この映画の物語なのだ。

第三者の視点

作中では、生理は「穢れ」の期間ということで、その期間の女性は家に入れないというインドの古い慣習が描かれている。主人公のラクシュミは、汚れた布を妻のガヤトリが使用しているのを見かけ、衛生的ではないということで生理用ナプキンを購入する。

しかし、ガヤトリは高価すぎるということで、ナプキンを使うことを拒否するのだ。ならば自作すればいいというラクシュミのひらめきから、彼のナプキン作りの日々が始まる。

ガヤトリは以前からの習慣であるため、汚れた布を使うことに疑問を持っていなかった。生理の経験がないラクシュミだからこそ、その不衛生さに気付くことができたのだ。

第三者だからこその偏見

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今作の主人公、ラクシュミは第三者の視点を持っていたからこそ、女性の生理ケア問題に気が付くことができた。そういった変化をもたらすことができる第三者の視点だが、その視点をまた別の人が見た時に悪い影響をもたらすこともある。

男性でありながら生理用ナプキンを作ろうとするラクシュミは、村の女性たちだけでなく、妻にも理解されないままに、ただ妻に清潔なナプキンを作るために試行錯誤を繰り返した。

ラクシュミのその執念は、別の第三者にとっては特異なものに映る。そんな彼を助けてくれる人にも出会うことはできるが、男性が生理ナプキン作りをすることに対する偏見は続く。

理解者であるパリーに出会ってから、彼の活動は実を結ぶことになる。彼の作った安価なナプキン製造機はインド工科大学で発明賞を受賞して、「パッドマン」として一躍有名になる。

彼がナプキンを作るきっかけになったのは第三者の視点だった、しかし、彼を虐げたのも、そして認めたのも、すべて第三者の視点だったのである。

当たり前じゃない当たり前

慣習というものは、「当たり前」の行動様式を作るための一種のショートカット機能と言えるだろう。反復した行動が個人個人の習慣として定着する。個人のものだけではなく、そのコミュニティが反復してきた「当たり前」の行動が “慣習” となり、社会に根付いていく。

当事者にとっては「当たり前」でも、第三者にとってそれが特異なものに見えることもある。個人的な習慣の違いは、同棲を始めたばかりのカップルや、共に旅行する友人との間で顕著になる。社会的な慣習の違いは、方言やお雑煮の味付け等、違う地域の人と知り合うと色々と見えてくるものである。

当事者にとっての当たり前は、第三者にとっては当たり前ではない。そういった習慣の違いを認め合う寛容さが重要だ。

また、何か悩み事を抱えている場合、第三者に相談するのがいい。自分自身では「当たり前」と思っている考え方を第三者に聞いてもらうことで、自分自身では気が付けなかった解決策を見つけられるのだ。

本作のラクシュミのような変わり者を見つけても、まずはその人が何故そんなことをしているか質問してみるといい。きっと、自分の知らない世界が見つかるだろう。

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