【ネタばれ有】
なんだかいけ好かないけど、ステージに立てばスーパースター。素行は悪いけど、サッカーをさせればエースストライカー。ふらふらと仕事をさぼっているようで、プレゼンは抜群。
あなたの周りにもそんな人はいないだろうか。
周りとまではいかなくとも、ミュージシャン等の芸能人や、スポーツ選手でそういった逸話を耳にしたことがあるだろう。
いけ好かないけどかっこいい。そんなネズミがこの作品で登場するのが、ミニオンズで知られるイルミネーション・エンターテイメントが制作した『SING』だ。本作は2017年に日本でも公開され、大ヒットを記録した。個性豊かな動物のキャラクターの物語に多くの人が笑い、そして感動をした。
マイクというそのネズミの行動にイライラされられることが多かったが、パフォーマンスは抜群だった。悪役のように描かれるものの、彼はかっこいいキャラクターでもあった。そんな彼の魅力について考えていきたいと思う。
異質なマイクの存在
劇場の支配人であるバスター・ムーンは、経営難の劇場を立て直すために賞金1000ドルの歌のオーディションを企画する。手違いで賞金が “10万ドル” になったチラシが配られることから、物語が始まる。
この作品は、ショービジネスに夢を見るキャラクター達のサクセスストーリーである。
ゾウのミーナは恥ずかしがり屋を克服するために努力をする。ゴリラのジョニーは苦手なピアノを、ロジータは華やかなステージを目指してダンスステップを練習する。ティーンエイジャーのヤマアラシ、アッシュは失恋という困難に立ち向かうのだ。
そして、登場するキャラクターが自分自身の困難を乗り越えるために、努力をする物語なのだ。
しかし、マイクはどうだろう。彼以外のキャラクターが血の滲む努力をしている中、彼はナンパにギャンブルに大忙しだった。彼は努力をするのではなく、むしろ事態を悪くするトラブルメーカーだ。劇場が潰れてしまうきっかけを作ったのもマイクだった。バスター・ムーンの責任も大きいが、マイクのイカサマでクマ達の恨みを買ってしまったのだ。
グレイトなショー
賞金が出ないステージに彼を駆り立てたのはプライドだった。オーディションに賞金が出ないことを知りやる気を失っていた彼だったが、ライバルだったブタさん達の堂々たるステージを絶賛する街頭の視聴者に出会う。
彼はその賛辞に耐えられず、「グレイトなショーを見せてやる」と言い残し、ステージに上がるのだった。
下品にも見えかねない紫のスーツをスマートに着こなし、往年のシンガー、フランク・シナトラの「My Way」を歌い上げる。うっとりとするような歌声に、感情の溢れる表情。ヘリコプターの風に吹き飛ばされるというハプニングまで味方につけ、彼は文句のない程に完璧でグレイトなショーを披露した。
それにしても、「My Way」を選んだセンスも素晴らしい。わがままに好き勝手な生き方をしているマイクに合った選曲で、彼の生き様を投影している。まるで、視聴者に「俺のことが嫌いな奴もいるだろ?でも関係ない、これが俺だ」と訴えかけているようで、むしろ清々しい気持ちにさせてくれた。
ギャップの塊
マイクが何故こんなにもかっこいいのか。それは、オリジナル版ではセス・マクファーレン、日本語版では山寺宏一の歌声が素晴らしかったのはもちろん、彼が持つ ”ギャップ” にその秘密があるのではないかと思う。
まず1つめのギャップが、ネズミというキャラクターのイメージだ。ミッキーマウスやジェリー、スチュアート・リトルにピカチュウ。ネズミというキャラクターには小さくて可愛いというイメージが強い。しかし、マイクは傲慢で態度がでかい。見た目は可愛らしいはずだが、憎たらしいその性格のせいで可愛く見えないのだ。
そして2つめが、普段はいけ好かない奴なのに、ステージでは完璧なエンターテイナーであることだ。ステージに帰ってきた彼は、仲間たちから「何しに戻ってきたの?」と言われる始末。それなのに、グレイトなショーで仲間たちは彼の歌声に聞き惚れるのだ。まるで、映画版のジャイアンのように、決める時はしっかりと決めてくれる。
決めるときはしっかりと決める。普段の態度がどうであれ、本物のショーを見せられるのなら、エンターテイナーとしては優秀だ。普段は駄目な奴というギャップがあるからこそ、能力の高いいけ好かない奴はかっこよく見えてしまうのだろう。もしもコンテストが開催されるなら、間違いなく私は彼に1票を入れる。
勝手に続編予想
2020年に『Sing 2』の公開が既に発表されている。私はとても楽しみなのだが、その内容を勝手に予想しようと思う。
次回作の台風の目はだれか。もちろんマイクだ。彼はエンディングでの劇場の再オープンに登場していない。
恨みを買ったクマ達から逃げて、彼女と去って行った彼が、バスター・ムーンの劇場に舞い戻り騒動を起こすのではないかと予想している。
憎たらしい彼が反省をして良い奴になることは期待していない。彼は彼のまま、憎たらしいままで、グレイトなショーを再び見せてくれたらと願う。