【微ネタばれ有】
衝撃的な予告映像で賛否両論の嵐を巻き起こした『キャッツ』(原題:Cats)は、往年の名作ミュージカルをジェニファー・ハドソン、ジェームズ・コーデン、ジュディ・デンチ、テイラー・スウィフトという豪華キャストを迎えて実写映画化した作品だ。
英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパルである、フランチェスカ・ヘイワードが主演を務めている。プリンシパルというのはバレエ団における頂点の階級であり、バレリーナとしての実力は折り紙付きである。
『英国王のスピーチ』でオスカー監督となり、ミュージカル映画『レ・ミゼラブル』でも絶賛されたトム・フーパ―監督が『キャッツ』のメガホンを取る。出演者の演技力、歌唱力、ダンスの実力、そして才能ある監督が集結した本作。そして、ブロードウェイの人気作である『キャッツ』の映画化ということで、傑作にならないはずがない。
しかし、仕上がったのは2019年最後の化け物と評するに相応しいとんでもない映画だった。2019年12月20日(金)からアメリカ、カナダ等で公開され、日本では2020年1月24日(金)に公開予定となっている本作を紹介しよう。
ダンスは流石に凄い
私はバレエに明るくはないのだが、本作のヒロインであるビクトリアを演じるフランチェスカ・ヘイワードが舞い踊る姿は美しいと感じた。
バレエだけでなく、タップダンスやヒップホップダンスを取り入れた振り付けもあり、奇妙な猫達のダンススキルは素晴らしい。
しかし、本作はほぼ全編に渡って踊り狂う猫を見続けることになる。そのため「あれ、これさっきも観た」と感じる動きが頻発するのである。
ダンススキルの素晴らしさはわかるのだが、ハイテンションでそればかり見せられても疲れてしまう。何故そこまで疲れてしまうのか、それはキャストが演じる猫のビジュアルのせいだろう。
猫がもはやホラー
ビジュアルについては、予告編から話題になっていたようにかなり不気味である。猫と言うにははあまりにも人間っぽく、人間と言うには艶やかな毛並みである。
猫のビジュアルと言えば、読者の方々は『ハリーポッターと秘密の部屋』で猫の毛入りのポリジュース薬を飲んでしまったハーマイオニーをご存じだろうか。
人間らしさはあまり残っていないが、あの姿の方が猫らしくて断然可愛らしい。ハーマイオニーは毛玉に苦しめられたが、『キャッツ』の猫達はひたすら踊り狂っている。ということは、本作で使用されたポリジュース薬はキャストに配慮して薄められていたのだろう。
本作の出演者達は、トム・フーパー監督に薄めたポリジュース薬を盛られながらも、健気に楽しく生きようとしている様子を撮られたに違いない。
そして、あの毛並みでありながら、一部のキャラクターは手が人間のままである。姿勢が良すぎて全く猫背じゃない猫たちがスパイダーマンのように地を這って背景で動き回る様は、完全にホラーだ。
私は約2時間の鑑賞時間でもあのビジュアルに慣れることは出来なかった。
猫よりも気持ち悪い生物達
本作で人間のキャラクターは登場しない。しかし、登場する動物は猫だけではないのだ。猫以外の生物、ネズミとゴキブリが登場する。
始末の悪いことに、そのネズミとゴキブリが猫達を凌駕するほどに気持ち悪いのだ。ネズミは子ども達が演じているのだが、彼らの両親でさえも「可愛い」とは称さず「よく頑張ったね」とお茶を濁した事だろう。お腹が膨らんだネズミの体に着色された人の顔が貼り付いているのはただただ気味が悪い。
そして、本作で最も気持ち悪いのはゴキブリだ。恐らくバレエダンサーが演じているのだが、スタイル抜群の女性達がゴキブリのコスチュームを身に纏って整列している姿が気持ち悪い。何よりも不快なのは、そのゴキブリをスナック感覚で貪る猫達だ。思いっきり人型の猫が人型のゴキブリをむしゃむしゃ食べるのを見るのは、気持ち悪い以外の何物でもない。
そのシーンで私の前に座っていた親子が劇場を後にしたことはここに書き残しておこう。
歌姫だけが本作の良心
ここまで酷評してきたが、本作にも良い点はある。それは、ジェニファー・ハドソンとテイラー・スウィフトの存在だ。
予告編でも流れているが、切ない旋律を溢れんばかりの表現力でジェニファー・ハドソンが歌い上げる「メモリー」は圧巻だ。しかし、映像映えするシーンでもないため、映画ではなくサウンドトラックだけで十分だ。
そして彼女を超える本作のMVPはテイラー・スウィフトだ。彼女の登場でスクリーンの雰囲気が一転する。色気を振りまきながら彼女が歌う「Macavity」は素晴らしいの一言に尽きる。ジャズ調の曲を、ミュージカルらしい抑揚で演技を交えながら歌う彼女の実力には驚嘆した。本作で1番ミュージカルをしていたのは彼女だろう。
テイラー・スウィフトが登場する僅かなシーンだけは、ダンスも映像もセンスが良い。数多の名曲を世に送り出している彼女は、ミュージカル女優としての才能も抜群だった。彼女が登場するのは5分程であるが、本作は彼女を見るためだけにあると言っていい。
まとめ
奇妙な猫達が怪しいネオンの中で繰り広げる、延々と続く単調なダンスは新種の黒魔術か何かと錯覚する程の不気味さだった。クリスマスイブの夜に本作を鑑賞したのだが、最悪の悪夢で目覚めたクリスマスの朝は一生忘れられないだろう。もしかしたら、本作は悪夢を呼び起こすための儀式だったのかもしれない……。
私は舞台の「キャッツ」を見たことが無い上に、ミュージカルを字幕なしですべて理解するのは難しい。私が本作の物語について理解しきれていない部分もある。そのため、私の酷評は的を射ていない部分もあるかもしれない。もしかしたら、バレエ好きや無類のミュージカル好きならば楽しめるかもしれない。
ただ、様々なレビューサイトで低評価が付けられまくっていることも事実である。日本で公開される時にはどのような評価になるのか楽しみだ。