検証

『ボーダーライン』容赦のない発砲速度をストップウォッチで計測した結果

2019/02/06

© 2015 Lionsgate

【ネタばれ有】

演出のためになかなか引き金を引かない登場人物や、悪事をしたり顔でベラベラと話してしまう悪党達。読者の皆様は、そういった非合理的な行動にフラストレーションを感じたことはないだろうか。

そういったシーンは、場面に緊張感を持たせることや、物語に深みを持たせるために効果的である。しかし、見ている時に「早く撃てよ」と感じてしまう人はきっと私だけではない。

需要があるのか不明であるが、今回はあのストップウォッチシリーズ第2回目である。

検証の対象は、『ボーダーライン』(原題:Sicario)。2015年に公開されたアメリカの犯罪映画だ。メキシコの麻薬カルテルの闇に挑むアメリカ国防総省と、その捜査に参加することとなったFBI捜査官のケイト(エミリー・ブラント)の姿を描いている。

麻薬カルテルという、一筋縄ではいかない巨悪には綺麗ごとだけでは太刀打ちできない。そのためか、この映画に登場する狼達(捜査官)は容赦がない。今回の検証では彼らの容赦の無さを確かめるため、彼らが敵に向けて発砲するまでの時間を計測し、分析した。

その結果、検証の趣旨とは異なるが、とても興味深いデータが得られたため、そちらも最後に紹介する。

※記事内で紹介する計測結果は、筆者が映画を鑑賞しながらストップウォッチで測定した時間である。計測結果は、5回測定した平均値を記している(小数第三位は四捨五入)。鑑賞者の解釈により、計測の開始と停止のタイミングに差が生じることもあるが、その点はご容赦頂きたい。

邦画における、発砲速度の一例

ボーダーラインの検証に入る前に、筆者がフラストレーションを感じた映画のワンシーンを比較として挙げる。

詳しくはこちら記事を参照していただきたい。

2011年に公開された日本映画『ワイルド7』のラストシーンだ。予告編では瑛太の演じる飛葉大陸が「ハチの巣だろうが、八つ裂きだろうがこの引き金だけは引いてやるよ」と悪の親玉に言い放つ。このシーンにおいて、飛葉は上記のセリフを言い放ちながらも、1分2秒の間引き金を引かず、そのままエンドロールまで引き金を引くことはなかったのだ。

高速道路での発砲速度

© 2015 Lionsgate

物語の序盤で、主人公と国防総省捜査官(以下、捜査官)カルテルにとっての重要人物をメキシコからアメリカに連れ出すシーンがある。そして国境を超えるための高速道路には、カルテル構成員(以下、構成員)がその重要人物を奪還しようと待ち構えている。捜査官達が構成員が待ち伏せしている事に気付き、襲撃を警戒するシーンは手に汗握るものになっている。一時もスクリーンから目を離せない緊張感のあるこの場面で、筆者は捜査官が構成員に向けて発砲するまでの時間を計測した。

このシーンでは、車の中にいる構成員が捜査官たちを撃ち殺そうと銃を握りしめており、捜査官達を一触即発の場面である。捜査官達は、構成員が発砲するまでは引き金を引かないように指示を受けているため、圧倒的に不利な状況だ。

それでもその場を優位に立つためには容赦がない。構成員が引き金に指を掛けた瞬間、捜査官達は躊躇せずに発砲し、構成員を皆殺しにする。構成員の敵意を感じ取って、捜査官達が1台目の車に対して発砲するまではなんと0.16秒。2台目の車を襲撃する際には0.18秒と、ほぼ同様の記録を叩き出した。恐らく先制での発砲は違法なのだが、それを無視した素早い襲撃を成し遂げるとは、なんと頼もしい捜査官達だろう。

それに対して、主人公のケイトは同じ高速道路のシーンで、別のカルテル構成員から襲撃を受ける。彼女は間一髪で敵の襲撃を察知して銃撃を躱し、代わりに敵の頭を撃ち抜いた。FBI捜査官としての実力を発揮したシーンであるが、反撃までに3.17秒もかかっていた。

捜査官が構成員を襲撃した秒数を2台分で平均すると、0.17秒になる。ケイトが反撃をするまでの間に、先に挙げた捜査官達は約18回も反撃ができるということになる。『ワイルド7』と比較するならば、捜査官達は約368台分の車を制圧してしまえるのだ。ああ、なんとも容赦がない。

仲間の防弾チョッキを銃撃する容赦の無さ

物語が進み、麻薬が密輸されるトンネルを見つけ出した捜査官達。トンネル内で銃撃戦が繰り広げる中、ケイトは作戦中に不穏な動きをするアレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)を発見する。仲間同士であるが、ケイトはアレハンドロに銃を向けて問い詰める。

このシーンでは、防弾チョッキ越しであるが仲間であるケイトにハンドガンで2発お見舞いする。その上、心配するのではなく「二度と俺に銃を向けるな。呼吸を整え、地上に戻れ」と言い放って去っていくのだ。

2人が向き合ってから、アレハンドロが発砲するまでは5.55秒かかっている。しかし、ここでは彼らが向き合った時間ではなく、アレハンドロがケイトを “敵” と認識したであろう時間を計測したいと思う。アレハンドロが「銃を捨てろ」と言った後に、ケイトは「そこをどきなさい」と拒絶する。拒絶の言葉から発砲までの時間は、なんと僅か0.38秒。

仲間ということで、さすがのアレハンドロも構成員よりも約2倍の時間を躊躇したのかもしれないが、やはり好タイムを叩き出した。

麻薬カルテルのボスと、アレハンドロに向けられた銃口

© 2015 Lionsgate

物語の終盤、アレハンドロは麻薬カルテルのボスの屋敷へ潜入する。妻子の仇であるカルテルのボスが、妻と二人の息子と共に食卓を囲んでいる場面に、アレハンドロが訪れる。家族の団欒に暗殺に来るとは、相変わらず容赦がない。

しかし、このシーンではアレハンドロとカルテルのボスの対話があり、発砲するまでは2分41秒もかかっている。このシーンにおいては最後の決着シーンであるため、時間がかかってしまったことは仕方がないだろう。

また、アレハンドロが圧倒的に優位に立っている。発砲までに時間はかかっているが、反撃の可能性がないことを確認した上でのこの時間であるため、敵に容赦をして時間がかかってしまった場面というわけではない。ボスの妻と息子達を先に発砲した後、アレハンドロはボスに銃口を向けた39.96秒後に発砲し、因縁に決着をつける。

ケイトとアレハンドロの対比

容赦の無さを時間で表すために始めた計測であったが、この映画のラストシーンで思わぬデータを得ることができた。

ラストシーンでは、ケイトが「善悪のボーダーライン」に葛藤する。しかし、アレハンドロに銃で脅された彼女は、作戦が法に則ったものだという書類にサインをしてしまう。(ここでも、ケイトの銃を使用して脅し、それを解体してから去っていくという徹底ぶり)

アレハンドロは、「法秩序が残る街へ行け、君は狼ではない。ここは狼の地だから」と告げて去っていく。ケイトは、去り行くアレハンドロにベランダから銃口を向ける。アレハンドロは抵抗の言葉もなく、反撃するそぶりもなくただケイトを見つめるだけだ。

ケイトが銃を向け、アレハンドロを撃たずに銃を下ろすまでの時間がなんと、38.61秒だった。そう、アレハンドロがカルテルのボスに向けて引き金を引くまでの時間と近似しているのだ。

銃を構える沈黙の時間を描いたこの2つのシーンは、アレハンドロが引き金を引いた39.96秒と、ケイトが引き金を引けなかった38.61秒という時間で表現されている。これは、引き金を引ける狼であるアレハンドロと、狼になれないケイトの対比を見事に描き出している。

こうした時間にまで暗喩を示すとは、監督のドゥニ・ヴィルヌーヴの手腕が一番容赦せずに徹底をした作りこみなのかと感嘆してしまう。

検証結果

登場順人物場面記録
1捜査チーム高速道路にて容赦の無い襲撃10.16秒
2捜査チーム高速道路にて容赦の無い襲撃20.18秒
3ケイトカルテル構成員に反撃3.17秒
4アレハンドロケイトの防弾チョッキを銃撃0.38秒
5アレハンドロカルテルボスを発砲するまで39.96秒
6ケイトアレハンドロに銃を向ける38.61秒

捜査官は容赦ないを通り越して非情

・監督の演出が一番容赦ない

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