検証

映画の原題を機械翻訳したらどエラいことになった

2019/12/29

Photo by Alex Knight from Pexels

映画の邦題が叩かれる様を見る度、邦題を決めた担当者に同情せずにはいられない。

原題をそのままカタカナにすれば「怠慢だ」と言われるし、英語を解さない人にも伝わるように翻訳や意訳をしてしまうと「雰囲気を損ねる」と言われる。かといって分かりやすい別の英単語にすると、それはそれで「ナメてるのか」と反感を買う。

邦題を決めるという業務において、どこに向かっても行く先は地獄しか待っていないのだ。

元を正せば日本人の多くが英語を話せないから邦題が必要なだけなのに。いや、読むことにすら抵抗を感じている日本人だって少なくはない。海外の映画を楽しませるために必死でローカライズをしている方々が責められるというのは、憐憫の情を示さずにはいられない。

配給会社で血が滲むような努力をしているであろう担当者の努力を称えるべく、今回はちょっとした検証をしてみたい。

検証と仰々しく言ったものの、今回行うのは本稿のタイトルの通り "映画の原題を機械翻訳してみる" というお遊びだ。

機械翻訳を使ったことがある方ならお察し頂けるだろう。文脈を無視してほぼ直訳しがちな機械翻訳がマトモな邦題を生成してくれるわけがない。なんなら、ヤバい日本語が出てくることを期待すらしている。

機械翻訳と邦題を比べて、人間の手によるローカライズがいかに有難い所業か改めて噛み締めようではないか。

検証について

仮にも "検証" という単語を使うからには、それらしいプロセスを作る努力くらいしてみよう。

今回の検証の鍵を握るのは機械翻訳サービスの選定だ。まず思いつくのはGoogle翻訳だが、こちらは機械による直訳というよりは、ニューラルネットワークなり何なり(よく分かっていない)を駆使して割と自然な翻訳をしやがる。それではなんだか可愛くない。

もっと機械による直訳っぽさがないと企画として面白くないので、より機械翻訳っぽいものを探してみると、「エキサイト翻訳」あたりが良い塩梅だ。それらしいプロセスとか言っておきながらボンヤリとした選定だが、まぁ許して欲しい。

素材となる原題はインターネット・ムービー・データベース(IMDb)に掲載されているものを使用する。

それをエキサイト翻訳にかけるわけだが、一度翻訳するだけだとこれまた面白くない。そこで、英→和、和→英、英→和……と逆翻訳を繰り返す。

こうしてエキサイト翻訳による "蒸留" を経て、純度が高めな翻訳結果が生成されるというわけだ。

よし、前置きはこれくらいにして本題に入ろう。せっかくなので、機械が困惑しそうなタイトルを選んでいきたいと思う。

『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 Birds of Prey』

© 2019 - Warner Bros. Pictures

まず犠牲に……いや、この高尚な検証の題材となるのは、2020年に公開予定の『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 Birds of Prey』だ。バットマンの宿敵であるジョーカーを題材とした『ジョーカー』に続いて(※)DCコミックスが放つ映画で、ジョーカーのガールフレンドであるハーレイ・クインを主人公としたハチャメチャな作品らしい。

※『ジョーカー』と『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 Birds of Prey』にストーリー的な繋がりは無い。

こちらの原題は "Birds of Prey: And the Fantabulous Emancipation of One Harley Quinn" で、直訳するなら「猛禽類:そしてとあるハーレイ・クインのとんでもなく見事な解放」といったところだろうか。

こちらの原題を機械翻訳にかけて "蒸留" すると……。

『ゲームの鳥の最もよいリリース:そして、1人のヘイリー女王』

何かが解放(リリース)されるという点は合っている。うん。ハーレイ・クインがヘイリー女王になってしまったのも目を瞑ろう。

しかし鳥の方がリリースされてどうする。ヘイリー女王がサブ扱いで良いのか。

せっかくの検証なので少し解説すると、"Birds of Pray" は各単語を直訳すると「狩りをする鳥」という意味で、通常は猛禽類を指す。「狩り」を指す英単語には "prey" の他にも "game" などがあるため、蒸留の過程で「狩り」から「ゲーム」にすり替わってしまったのだろう。

『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』

© 2014 - Fox Searchlight

次に蒸留器にかける映画は2014年に公開された『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』だ。落ちぶれた元人気俳優が主人公で、彼のカムバックが懸かった舞台公演に至るまでの様子を描き、アカデミー作品賞にも輝いた。

原題は "Birdman or (The Unexpected Virtue of Ignorance)" で、直訳すると「鳥男もしくは(無知の予期せぬ徳)」だ。原題にかなり忠実にローカライズされている。

ところが "蒸留" を経ると……。

『鳥類学者 または(無知な予想外のヨシノリ)』

まぁ「バードマン」だから。鳥の人=鳥類学者っていうのは少し飛躍している気もするが、大体合ってる。でもヨシノリ、お前は誰だ。本編に出てこないぞ。

確かに、唐突に登場したヨシノリの存在は予想外ではある。なんなら、無知で予想外のヨシノリと言われると気になるではないか。コメディ色が強そうで、結構見てみたかもしれない。

後ろの彼はヨシノリではない © 2014 - Fox Searchlight

さて何故ヨシノリが出てきたかと言うと、原因は "virtue" という単語にある。「徳」「美徳」を指す英語だ。びとく……美徳……ヨシノリ……。

読み間違えも、機械ならではですよね?

『スパイダーマン:スパイダーバース』

© Sony Pictures

本稿を読み進めているうちに「タイトルが長いからダメなんでしょ?」と思われる方も多いはずだ。ということで最後は、比較的短めな映画を "蒸留" してみよう。

本ブログでも取り上げたことがある『スパイダーマン:スパイダーバース』は、2018年に公開されたアニメ映画だ。マーベル・コミックでも人気のスパイダーマンの映画ではあるのだが、様々な世界線(ユニバース)からスパイダーマンがやってくるため「スパイダーバース」と銘打たれている。

原題は "Spider-Man: Into the Spider-Verse" で、直訳すると「蜘蛛男:スパイダーバースの中へ」だ。スパイダーバースはスパイダーバースなのだから、これ以上直訳の余地はない。

さぁ "蒸留" をしてみると……。

スパイダーマン:クモ詩において。

惜しい。惜しいんだけども、クモ詩って何だ。スパイダーポエム?

どうやらユニバースからもじった "-Verse" が悪さをしているようだ。"Verse" だけだと「詩の1行」や「聖書の1節」という意味になる。

にしてもクモ詩って。もう翻訳を諦めているやっつけ感すらある。

邦題ってありがたいよね

色々と "蒸留" してみて分かって頂けたかと思うが、タイトルのローカライズは一筋縄ではいかない。私達が普段から自然な邦題を目に出来ているのは、ローカライズがあるからこそだ。

英単語を直訳するだけではかえって本来の意味から逸れてしまう場合もあるし、中には英語を知らないと意味を掴みづらい造語や固有名詞もある。時には翻訳を諦めて、カタカナに頼る勇気も要る。ローカライズって、皆さんが思っているよりも難しいのだ。

今回の検証を通して、映画の邦題を決める担当者の方々の並々ならぬ努力と決断が少しは伝わっただろうか。

こんな偉そうなことを言っておきながら、本当は妙ちくりんな邦題を生成できるのではないかと好奇心から始めた企画だ。次回はカッコつけずにクイズ形式にでもしてみようかと考えている。乞うご期待。

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そうた

編集を担当。ホラー映画やサスペンス映画など、暗めの映画が好き。『ジャーヘッド』を愛しすぎてHD DVDまで買ったものの、再生機器は未購入。山に籠って薪を割る生活を夢見ている。

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