検証

一番ワイルドなのは誰か、ストップウォッチで検証した結果『ワイルド7』

2019/01/19

©2011「ワイルド7」製作委員会

【ネタばれ有】

読者の皆さんは、映画の登場人物が引き金を引くまでの時間に興味を持ったことがあるだろうか。ヒーローも悪役も、いつも敵に銃を向けてからだらだらと講釈を垂れ、無益な語らいをしている間にとどめを刺させない時もある。

しかし、そんなイメージは私の主観によるものなのかもしれない。私のイメージよりも容赦なく敵を排除するヒーローもいるのではないか。自らの計画を話してしまう前に、すぐに反撃を仕掛ける立派な悪役もいるのではないか。

私はそんなアクション映画への偏見を、感覚ではなく数値で示すことによって検証していこうと考えた。ヒーローや悪役の発砲速度をストップウォッチで計測することにより、数値化するのだ。

この検証企画「ストップウォッチシリーズ」と名付け、その記念すべき第1弾として、『ワイルド7』を選んだ。

『ワイルド7』は、望月三起也の大ヒット漫画を原作とし、2011年に公開されたアクション映画だ。

この映画を選んだ理由は「ハチの巣だろうが、八つ裂きだろうがこの引き金だけは引いてやるよ」という予告編のセリフだ。このセリフの後、どの程度の速度で引き金を引くのか気になったため、私はストップウォッチを握りしめた。

※記事内で紹介する計測結果は、筆者が映画を鑑賞しながらストップウォッチで測定した時間である。計測結果は、5回測定した平均値を記している(小数第三位は四捨五入)。鑑賞者の解釈により、計測の開始と停止のタイミングに差が生じることもあるが、その点はご容赦頂きたい。

ジョーカーの模倣犯

この映画は能面を被った銀行強盗のシーンで始まる。どこか『ダークナイト』を彷彿とさせるオープニングだ。『ダークナイト』にて、ジョーカーは容赦がなかった。その意志を受け継いだ映画だとしたら、好タイムが期待できると私は胸を躍らせた。

強盗達は、人質に麻袋を被せて誰が強盗か人質かをわからないようにして、輸送車両での逃走を試みる。輸送車に乗り込んだ強盗は、人質の1人を輸送車に乗せ、他の人質8名には銃弾を浴びせた。

輸送車に1人目が乗り込んでから、他の人質を銃撃するまでの時間、6.37秒。

全員が輸送車に乗り込むのを確認した後の発砲であったが、なかなかの好タイムではないだろうか。人質を始末して、逃走に成功している点も印象が良い。

無事に逃走に成功した能面の銀行強盗達は、不要になった人質を路上で射殺しようとする。引き金に指をかけ、「ご苦労さん」と労いの言葉を人質にかけた。

引き金に指をかけてから、2.91秒後に鳴り響く銃声。なんと、人質ではなく、強盗の頭に風穴が開いていた。そう、今作のヒーロー、ワイルド7の登場である。ヒーローは遅れてやって来るというが、間一髪で救い出す彼らはなかなか優秀なのであろう。

ワイルド7参上

©2011「ワイルド7」製作委員会

強盗の逃走車両に突っ込む巨大トレーラー。大破した車両に近付く7台の大型バイク。我らがヒーロー、ワイルド7の登場だ。ワイルド7が強盗達を包囲し、主人公の飛葉大陸が「お前ら全員退治する」と言い放つ。これは宣戦布告と言って間違いないだろう。

このシーンでは宣戦布告から、最初の発砲をするまでの時間を計測した。

その時間、なんと16.82秒。しかし、途中でスローモーションと早回しが入るため正確な計測はできなかった。ワイルド7は犯人を全員射殺するものの、武器を持った相手を制圧するためまでこの時間には何の狙いがあったのだろうか。

事故現場

銀行強盗達を無事に葬ったワイルド7達は、次の現場でもトレーラーで体当たりをして犯人達を追い詰める。事故車両から這い出た犯人を、飛葉は無情に銃で撃ち殺す。このシーンでは3人を銃で撃つのだ。

1人目は銃口を向けて発砲するまで0.2秒。2人目は0.14秒となかなかワイルドなタイムを叩き出した。

しかし、3人目はどうだろう。ひっくり返った車の上にゆっくりと飛び乗った飛葉は、これまたゆっくりと銃口を悪党に向ける。銃口を向けてから9.22秒後、悪党は銃で撃ちぬかれるのだが、引き金を引いたのは高速道路の別車線から銃を構えるスナイパーだった。

3人目のタイムは1人目のタイムの46.1倍、2人目に至っては65.86倍もの時間をかけているのに、仕留められていないのだ。これはなんと呑気なことだろう。カップヌードルに例えると、お湯を入れてから138分、或いは197 分放置した挙句に、他人にそれを食べられてしまうようなものだ。

ワイルド7のヒーローとしての資質を疑いながらも、きっと容赦なくワイルドに悪党を成敗するシーンがこの先にきっとあることを信じながら、再び再生ボタンを押した。

飛行船テロリスト達

厚労省と防衛省、それに米軍が共同開発をした新型ウイルスと爆弾が取り付けられた飛行船が東京上空に確認された。次の悪党はバイオテロリストだ。爆弾が爆発すると、罹患率、致死率共に90%を超える凶悪なウイルスが東京に散布されてしまう。

爆弾の熱に耐え得るとは、なんと恐ろしいウイルスなのか。

中央駅から逃亡を試みるバイオテロリスト達を探すワイルド7達は、日本中の監視カメラを自由に動かして、個人を特定するという技術に助けられて敵を発見する。これまた『ダークナイト』で見た気がする展開だが、犯人退治には必要なものなのだろう。

バイオテロリストを発見した矢先、駅の構内で人ごみをかき分け疾走するバイクが登場する。高速道路のシーンで、飛葉の標的を横取りしたスナイパーが中央駅にも現れたのだ。

バイクに跨がるその人物は、銃を構えた1.16秒に射撃し、テロリストを絶命には至らせないものの見事に腕を負傷させた。

バイクを走らせながら、見事に銃弾を命中させるその技術。そして、1.16秒という好タイムで引き金を引く容赦の無さ。飛葉がその人物のヘルメットを脱がせた時、顔を出した人物はなんと深キョンだった。

深キョン容赦ない

©2011「ワイルド7」製作委員会

襲撃を受け、混乱の中で応戦するテロリスト達。飛葉にヘルメットを脱がされた深キョンは、テロリストの背後から忍び寄りって銃口を向ける。敵に歩み寄りながら照準を合わせている5.21秒の間に飛葉が乱入して、テロリストに銃を撃たないように深キョンは指示されるのだ。

家族の仇であるテロリストをどうしても殺したい深キョンと、時限装置を解除させるために生け捕りにしたいワイルド7。そして飛葉は深キョンに殺しをさせたくないという私情から、仲間に銃を向けるという暴挙に出て混乱を起こす。

引き金を引くべきか引かざるべきか。1分39秒の混乱を打ち破ったのは、ワイルド7でもなく、テロリストでもなく深キョンであった。

深キョンは、テロリストが僅かに動いた瞬間を見逃さなかったのだ。高速道路のシーンも、バイク上の射撃も、主役よりもとてもワイルドな活躍をしてくれた。

この引き金だけは引いてやるよ

その後は特筆する計測場面もなく、物語はクライマックスを迎える。そう、問題の予告編のシーンである。

飛葉が「ハチの巣だろうが、八つ裂きだろうがこの引き金だけは引いてやるよ」と悪の親玉に言い放つ。悪の親玉は監視カメラのようなタレットで飛葉の眉間をレーザーサイトで狙っている。

主人公が正義のための覚悟を言い放ち、どんな幕引きを見せてくれるのだろうと私は胸を躍らせた。

悪の親玉に銃口を向けてから1分2秒後に鳴り響いた銃声は、またしても飛葉の銃から発せられたものではなかった。第三者に銃を弾き飛ばされたのだ。そして、その第三者が悪の親玉を追い詰めて事件は解決する。肝心の飛葉は、エンドロールまで引き金を引くことはなかった。

これは発砲速度どころの話ではなく、発砲できない速度になってしまった。なんとも甘すぎる。悪に鉄槌を下すのならセリフの前に引き金を引いてもらいたいものである。

検証結果

発砲順人物場面記録
1銀行強盗銀行からの逃走6.37秒
2ワイルドセブン人質を救出2.91秒
3ワイルドセブン宣戦布告後の沈黙16.82秒
4飛葉大陸高速道路での発砲10.2秒
5飛葉大陸高速道路での発砲20.14秒
6飛葉大陸スナイパーに獲物を取られる9.22秒
7深キョンバイク走行中に発砲1.16秒
8深キョン混乱の中テロリストを発砲1分39秒
9飛葉大陸ハチの巣にされても…1分2秒

・一番ワイルドなのは深キョン

・ハチの巣にも、八つ裂きにされなくても引き金は引かない。

余談

この映画では、スローモーションと早回しにより、正確に計測できないというシーンが複数あった。それは場面に臨場感を持たせる演出であるため、ストップウォッチで計測をしようとした私の勝手な悩みである。

しかし、この映画ではどうも現実の時間の流れと矛盾するシーンがある。深キョンが活躍したバイオテロのシーンで生じた時間の歪みだ。

飛行船の爆弾が爆発するまで、後3分だとテロリストが高らかに宣言する。その後、テロリストを制圧した後に、ワイルド7のメンバー、セカイ(椎名桔平)が後1分だと発言するのだ。私は手元のストップウォッチを確認して動揺した。テロリストの宣言後、1分8秒しか経っていないのだ。

この発言が正しいと仮定しよう。セカイの発言からテロリストに銃を向けて、時限装置の解除を迫るまで49秒掛かっていた。そうすると、残り11秒しかない。パソコンにログインをして、時限装置を解除するまで11秒とはなんという早業だろう。私のパソコンではとても間に合いそうにない。

登場人物のすべての発言が正しいのであれば、私の計測結果も意味を成さない。映画での時間の流れと、現実の時間の流れが異なるのだから。

私は思案した結果、1つの可能性を見出した。残り1分52秒を1分と表現することについて、間違いではないだろう。秒を切り捨てて表現することで他のメンバーにも急ぐように伝えるための、セカイの気遣いかもしれない。

ストップウォッチのおかげで、大人の気遣いによる優しい嘘に気づくことができた。そう確信した私は懲りずにストップウォッチを握りしめながら、次の映画を探すことにした。

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