「兵器人間とか人間兵器とか神様とかがいるチームに、“弓がめっちゃ上手い” ってだけのオジサンが混ざっているらしい」
私が『アベンジャーズ』(原題:The Avengers)を観たきっかけは、本当にそれだけだった。
『アベンジャーズ』公開当時は「また流行ものでしょ?」とメインストリーム主義を見下して鑑賞を見送っていた筆者だが(今では本当に後悔している)、超人たちと肩と並べて戦う那須与一の活躍をこの目に焼き付けたくなったのだ。
しかも、その「弓上手いオジサン」であるホークアイをジェレミー・レナ―が演じると聞き、私の鑑賞意欲は一層増した。
私の中では “裏切られてはキレる役” のイメージが固まっているジェレミー・レナーが、いかにもヤバそうな役を演じる。これで観ずには居られるか!
ということで、本稿では『アベンジャーズ』の鑑賞雑記をジェレミー・レナーを中心に据えて綴っていきたいと思う。
裏切られ遍歴
そもそも読者の多くは、ジェレミー・レナーを「裏切られ俳優」と認識していないかもしれない。まずはそこから説明差し上げよう。
私が把握している中で最も古いのは、2003年の『S.W.A.T.』だ。レナーは短気なS.W.A.T.隊員を演じていて、彼の行動は予てから隊内で問題視されている。パートナーである主人公も遂に愛想を尽かし、レナーを除隊に追い込むことになる。
そして、レナーがその後さまざまな作品で叫ぶことになる台詞を放つのだ。
「俺を裏切る気か!!」
全て書き連ねていると1記事分の文量になりそうなので、レナーが裏切られた作品を以下に簡単にまとめた。
- 2007年『ジェシー・ジェームズの暗殺』 普通に裏切られる。キレるシーンあり。
- 2010年『ザ・タウン』 裏切られないが、上記台詞と共にキレるシーンあり。
- 2011年『ミッション・インポッシブル:ゴースト・プロトコル』 裏切られないが、裏切り者の疑惑をかけられる
- 2012『ボーン・レガシー』 政府に裏切られる。
- 2013年『ヘンゼル&グレーテル』 彼女に騙される。キレるシーンあり。
- 2013年『アメリカン・ハッスル』 物語の本筋が「いかにジェレミー・レナーを騙すか」
特にジェレミー・レナーの作品を追っている訳でもない私が知っている範囲ですら、この通りなのだ。もはや、そういう星のもとに生まれて来たとしか言いようがない。
ただでは転ばないホークアイ
先の章で、レナーを取り巻く「裏切られる役は彼」と言わんばかりのタイプキャストっぷりはご理解いただけただろう。
※タイプキャストとは、他の作品で演じた役柄に似た役に抜擢すること。個性的が故にキャラのイメージが固まっている俳優・女優に多く見られる。
私が『アベンジャーズ』をBlu-rayで観ようと決めた時には既に、私の中での「裏切られ俳優」のイメージは固まっていた。だからこそ「スーパーヒーロー映画なのに、弓上手いだけのオジサン役」と、キャスティングの時点から裏切られているよう状況に過剰に反応したのである。
「いつ裏切られるのだろうか」「いつキレるのだろうか」とワクワクしながら観始めた筆者だったが、予想だにしなかった展開が訪れる。
ホークアイ(ジェレミー・レナー)の方から先にアベンジャーズを裏切ったのだ。
正確に言うとみんな大好きロキ様に洗脳され、敵の一員となってしまうだけだ。だが、キレるジェレミー・レナーの姿を散々見てきた私の目には、「いっつも裏切られるから、今回は先に裏切ってやる!」と言っているようにしか見えない。
こういう色眼鏡でキャラクターを見てはいけないということは重々承知しているのだが、ジェレミー・レナーの遍歴を知っている者としてそう思ってしまうことを許して欲しい。
ブラックウィドウにボコボコにされる
色眼鏡マンの私とて、女性よりも男性の方が強いなんて前時代的なことを言うつもりは無い。
だが、いくら洗脳されているとはいえ同僚であるブラックウィドウ(女性)にボコボコにやられてしまうホークアイはアベンジャーズの戦力としていかがなものか。
ブラックウィドウが普通の人間で言えば最強の戦士であることは間違いない。ただ、白兵戦においてブラックウィドウに水をあけられているのだとすると、ホークアイは弓以外に特に取り柄が無いことになる。
全自動小型ミサイルを大量に搭載した兵器をポンポン作れるトニー・スタークがいるチームで、「弓が上手い」だけで大丈夫なのか、ホントに。
矢が足りなくなったら文字通り役立たずになっちゃうよ……。
ロキに矢を向けるけども……
ホークアイを、ジェレミー・レナーを馬鹿にするような発言をくりかえしてはきたが、これも愛ゆえであることはご理解いただきたい。好きだからこそ、可哀想な境遇に文句を言ってやりたくなってしまうのだ。
だがそこは我らがジェレミー・レナー。良いところはばっちり持って行く。
アベンジャーズ最強の狂戦士ハルクが叩きのめした悪玉のロキを囲うアベンジャーズの一行。その先頭には、矢をつがえたホークアイの姿が。
いや、ロキに弓は効かんでしょうよ……。ほんでロキが急に反撃してきたら危ないよ……みんなの盾にされちゃうよ……。
と、ジェレミー・レナーは最後まで健気な姿を見せ続ける。
『アベンジャーズ』は、キャプテン・アメリカやアイアンマン、ソーなどのスーパーヒーローの “お祭り映画” と捉えられることが多い。
だが、お祭り映画だからこそ、神輿に乗り切れなかったホークアイにもたまには目を向けてあげて欲しい。
この記事でジェレミー・レナーの背景を知った後なら、彼の健気な姿がかえって魅力的に見えてくるはずだ。