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凶悪な失恋映画『ミッドサマー』 笑顔とお花に溢れた、狂気の祭りへようこそ

2019/07/21

© A24 Films - All Rights Reserved

【ネタばれ無】

2018年、アリ・アスター監督の長編デビュー作『ヘレディタリー/継承』が世界中を恐怖に陥れたことは記憶に新しいだろう。21世紀最高のホラーとも称される前作から1年、早くもアリ・アスター監督の新作が公開されている。

日本に先立ち2019年7月5日にアメリカで公開された新作『ミッドサマー』(原題:Midsommar)は、前作に引き続き観客に恐怖を振りまいている。

しかし、ワシントンポスト評によると、アリ・アスター監督は本作をホラー映画というよりも、おとぎ話みたいなものだそうだ。そして、同時に本作を「Breakup Movie」(失恋映画)と語っている。

2020年2月より、日本での公開予定だ。

カナダで一足先に鑑賞した私が本作について紹介しよう。

あらすじ

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ヒロインのダニ(フローレンス・ピュー)と、彼氏のクリスチャン(ジャック・レイナー)の関係は冷え切っていた。ダニの家族の不幸が会ったことを機に、2人の関係に改善の兆しが見えてきた。

クリスチャンは友人と共に、スウェーデン人の友人の故郷に旅行をすることとなる。男友達のみでの旅行をする予定だったが、ダニも旅行に参加することとなる。そして、一行はスウェーデンの夏至祭(Midsommar)に参加をする。

その夏至祭こそが、狂気に満ちた地獄の始まりだった。 

異質なホラー映画

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従来のホラー映画といえば、恐ろしい出来事は暗闇の中で起きる。そして、明るい場所は安全地帯として描かれてきた。

しかし、本作はほぼ全編を通して光に満ちている。緯度が高いスウェーデンでは、日が最も長い夏至には午後9でも真昼のように日光が降り注ぐ。

本作でも暗いシーンはあるが、光に満ちたシーンも安全ではない。色とりどりの花を見ているだけでも気味が悪い演出が随所に隠れている。光の中でも堂々と恐怖を植え付ける本作に安全地帯はない。

この異質なホラー作品は、明るい場所が安全という予定調和を見事に壊し、きっとこれからのホラー作品にも影響を与えるだろう。

毒のような恐怖

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本作はかなりグロテスクな描写も含まれるが、従来のホラー映画と比較しても、一発の怖さは物足りないかもしれない。ジャパニーズホラーのように、奥ゆかしい描写で怖がらせる作品でもない。

『ミッドサマー』では、じわじわと攻めてくる恐怖を味わう映画だ。心霊的な怖さや、驚かされるような描写は少なく、不気味さや不快感がじわじわとこみ上げる構成になっている。

夏至祭に参加する現地住民達の眩しい笑顔、色とりどりの花と緑に満ちた色彩豊かな映像が続く。そんな映像でも、独特のカメラワークや音楽が、得体のしれない気持ち悪さを演出している。

まさに毒のような恐怖を味わう本作は、鑑賞中だけに効く毒ではない。実は、鑑賞後にカップルを別れさせる映画としても話題になりつつあるのだ。

ブレイクアップムービー

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アリ・アスター監督は、失恋から本作の着想を得たという。本作を鑑賞した私としては、アリ・アスター監督の精神状態が心配で仕方がない。

私は1人で鑑賞をしたのだが、カップル向きの映画とはとても言い難い。また、家族で鑑賞することをおすすめできるような作品でもない。

凶悪な失恋映画である本作をどうしてもカップルで鑑賞したい場合は、以下のパターンに当てはまるか確認して頂きたい。

絆を確かめたい

付き合いたて、あるいは1年くらい経って価値観の違いが見つかり始めたカップルがこのパターンだ。

危険な賭けなので正直おすすめはできないが、この作品を共に乗り越えれば2人の絆もより深まるだろう。

気まずい雰囲気や喧嘩して間も無いカップルなら感想を語り合わない方がいい。きっと、壮絶なブレイクアップが待っているだろうから。

絶対の信頼がある

連れ添って数十年の熟年夫婦やカップルがこのパターンに当てはまる。

相手との価値観の違いも熟知しながら、一部は受け入れ、一部は諦めの境地に達しているカップルなら、この作品で簡単にブレイクアップすることはないだろう。

しかし、お互いが精神的にキツくなるホラーが好きでない限りは、口直し用に別の映画のチケットが必要になるかもしれない。

むしろ別れるきっかけが欲しい

もしあなたが煮え切らない関係にやきもきしている場合、本作を是非カップルで鑑賞して欲しい。

そして、相手の感想を根掘り葉掘り訊ねてみることをおすすめしよう。次第にお互いに怒りが込み上げて簡単に別れることができるだろう。

しかし、逆のパターンも考えられる。感想を語り合ううちに、意外と共通の価値観でむしろ関係が改善してしまうパターンだ。そうなったらそうなったで、アリ・アスター監督に感謝をしよう。


まとめ

日本での公開が決定した。かなり過激な描写もあるため、おそらく修正が入るのではないかと思う。

個人的にショックだった点は、『シング・ストリート 未来へのうた』で優しいお兄ちゃんを演じたジャック・レイナーが、本作で見事にジェットエンジンをもぎ取られてしまったことだ。

本作は1人か、同性の友人と鑑賞することをおすすめしたい。正直、かなり観ていてしんどくなる作品なので、精神的にきついホラーでも大丈夫な方のみ鑑賞していただきたい。また、何も知らないカップルがデートでふらりと鑑賞してしまわないことを祈るばかりだ。

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