【ネタばれ有】
「スター・ウォーズ」シリーズを取り巻く愛憎模様は常に混沌を極めている。
とあるスター・ウォーズ・フリークが最も愛していると謳う要素も、他のフリークにとってはシリーズを堕落させた汚点でしかない……といった事例がそこかしこに見られ、最早ファンの "総意" など無いに等しい。
熱狂的なファン同士の意見の対立は熾烈で、学校や職場で一度「スター・ウォーズ」談義が始まったら、15分後には流血沙汰になること請け合いだ。
まさに映画業界の火薬庫的な存在だったスター・ウォーズ・フリークたちの間を、火打ち石を打ちながら全力疾走した作品が存在する。そう、2017年の年末に公開された『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(原題:Star Wars: The Last Jedi)である。
公開当時はファンの意見が真っ二つに割れ、SNSや映画レビューサイトなどがさながら宗教戦争の様相を呈していた。『最後のジェダイ』を巡って絶賛派と否定派が争っていた点はいくらでもあり、戦争終結の望みなどある筈もない。
今となっては懐かさすら感じる『最後のジェダイ』戦争だが、新作『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』が2019年12月20日(金)に公開される前に、ひとつ語っておきたい事がある。
それは『最後のジェダイ』の "最も悪名高いシーン" が、長く続くレジスタンス史上で「最も崇高な任務を果たしていた瞬間」なのではないか、という所見だ。
※本記事はAaron Dicerという映画評論家のYouTubeチャンネル/ポッドキャスト「Siftpop」から着想を得ている。
『最後のジェダイ』を巡る戦争の成り立ち
『最後のジェダイ』は「スター・ウォーズ」シリーズでも最も人気の高いシーンと、最も不評を買っているシーンが混在している。
それもこれも、同作のライアン・ジョンソン監督が所謂 "スター・ウォーズらしさ" を十分に心得ておきながら、従来のセオリーをぶち壊すチャレンジャーだったからに他ならない。
『最後のジェダイ』では、ファンなら「すげー! これぞスター・ウォーズ!」と胸が高鳴るシーンの後には必ず「え? これが新しいスター・ウォーズの形なの?」と困惑するような描写が為される。その変化に適応できるかどうかで宗派が分かれ目になっているというのが、先に挙げた宗教戦争の大まかな成り立ちだ。
スター・ウォーズ史上 "最も悪名高いシーン"
中でも最も不評を買っているのが、カント・バイト――惑星カントニカに存在するカジノ都市のシーンである。
カント・バイトは物語の中盤にフィンとローズが訪れた場所だ。彼らは、レジスタンスがファースト・オーダーとの戦いに勝つための鍵とされる人物マスター・コードブレイカーを探しにこの都市を訪れる。
何故このシーンが悪名高いかと言うと、酷評派の言葉を借りるならば「物語本編に関係ない」からだ。
フィンとローズはマスター・コードブレイカーを仲間に引き入れることが出来ず、なんならファースト・オーダーに捕まって逆にレジスタンスの立場が危うくなってしまう。カント・バイトに行く作戦自体も杜撰な上、結果的に敵の利になってしまうため「行く必要が無かった」と言われしまえば、絶賛派の人も言葉を詰まらせること必至であろう。
「人間誰だって、焦ってたらミスくらいするさ」と尤もらしい理由を付けてみたって、その言葉はどこか虚しい響きしか持たない。
では彼らの行いに、本当に意味は無かったのだろうか。
レジスタンスとは何たるや
フィンとローズがカント・バイトを訪れた目的、つまり「マスター・コードブレイカーを味方に付ける(=ファースト・オーダーに勝つ)」ことにのみ焦点を当てれば、確かに彼らの作戦は愚かも良いところだ。
だが改めて考えてみたい。フィンとローズは、レジスタンスは一体何の為に戦っていたのだろう。無論、決してファースト・オーダーの大艦隊から逃げ切る為ではない。
反乱軍(Rebellion)の意志を継ぎ、全宇宙を恐怖で支配しようとするファースト・オーダーに異を唱えたのは、宇宙に生きる人々に「希望」を与えるためではなかったか。
『最後のジェダイ』が公開される1年前、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』で誰もが涙したのは、反乱軍の名もなき兵士たちが "新たな希望" をレイアの手に託す姿が「スター・ウォーズらしかった」からだ。
銀河帝国やファースト・オーダーと戦うこと以上に、人々に希望を与え、不条理に抗う意志を育むことこそ、レジスタンスの最も重要な役割なのである。
フィンとローズが成し遂げた最も崇高な任務
改めて、フィンとローズの物語に話を戻してみよう。彼らはカント・バイトで逃走劇を繰り広げ、ファジアー(馬のような生物)を解き放って更に騒動を拡大させる。
確かにこれだけ書いても、彼らの行動に意味など無かったようにしか見えない。
しかしファジアー騒動に助力した少年テミリ・ブラッグが、カント・バイトのシーンを "悪名高いシーン" から "最も崇高な任務を果たしていた瞬間" に昇華させ得る存在となっている。
テミリ・ブラッグは少年であるにもかかわらず労働を強いられており、ファジアーの世話をして日々を送っている。カント・バイトを訪れる者たちから聞いた話から想像を膨らませ、いつかカント・バイトから抜け出したいと考えている、いかにもスター・ウォーズらしい少年だ。
彼の人生は、フィンとローズに出会うことで転機を迎える。レジスタンスが本物である確信をようやく得た上に、ローズからレジスタンスの指輪を渡されるのだ。
ほんの短いシーンだが、テミリ・ブラッグは物語の終盤にも再度登場する。彼はフォースらしき力で箒を掴み、天駆けるミレニアム・ファルコンの軌跡を「希望」を宿した目で見つめるのだ。
奴隷のように扱われている1人の少年が「希望」を持てたのは、他でもないフィンとローズだ。レジスタンス全体が敗戦ムードを漂わせ、話が暗い方へ暗い方へと進む中で、世界の将来を担う少年が希望を持てたのは、彼らがカント・バイトで "無意味な" 騒動を起こしたからだ。
少年が希望を抱き、あまつさえ彼は反抗の兆しも見せてくれた。レジスタンスにとって、これ以上の成功は無いとは言えないだろうか。絶望の淵にある人間に希望を与えるという最も崇高な任務を、彼らが達成したとは言えないだろうか。
頼むから新作でも出てきてくれ
『最後のジェダイ』のラストでは、テミリ・ブラッグがまるでジェダイのような背中を見せてくれる。この後姿には、私も希望を抱かずには居られなかった。彼はきっと、この暗い銀河を変える存在になってくれるだろう、と。
とはいえ、私が抱いた希望が正しい物だったのかどうか、『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』を観ないことには分からない。
ただこれだけは言える。これだけ長々と「崇高な任務!」とか書いてきたんだから、新作でも出てきてくれ。
じゃないと希望が赤っ恥になってしまうから。