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観たことは無いけど名作 “らしい” 映画5選

2019/01/14

© Copyright 1997 - New Line Cinema - All rights reserved.

何かの折に自分が映画好きであることを告げると、ほぼ必ずと言って良いほど言われることがある。

「〇〇って映画は観た方が良い」

私は他人に薦められた映画は必ず “観たい映画リスト” としてメモを取るようにしているが、リストの項目数は馬鹿みたいに伸び続けている。そしてリストは、私が「話を聞いているフリ」をするためだけの道具と化しており、例えばNetflixで何の映画を観たものか悩んでいる時に開かれることもない。

今見返してみると、他人から薦められていながら未見のままである作品は600を超えていた。

今回の記事ではそのリストの中から、私が「名作らしい」という認識はしつつも未だに鑑賞していない映画を5本ほど紹介していきたいと思う。紹介と言いながら壮大なネタバレをしてしまったら申し訳ないとは思うが、何がネタバレになるのか私には分かりやしない。

だって観てないんだもの。

シンドラーのリスト

© 1993 Universal Pictures

映画好きの人とあれやこれや話している時に「『シンドラーのリスト』を観ていない」と告白すると、まるで赤ん坊でも引っ叩いたかのように責め立てられること請け合いだ。

確かに、アカデミー賞で7部門も受賞した『シンドラーのリスト』は紛うこと無き名作だろう。本作はナチスによるユダヤ人大量虐殺を鮮烈に描いており、それ故にこの映画を観ることを “戦後に生まれた人の義務” のように説いてくる人も少なくない。映画好き界隈における私の立場は、言うなれば「日本人なのに『はだしのゲン』を知らない」くらいのものだ。

この作品に関しては、私だって何故観ていないのか分からない。しかし私の天邪鬼な性格が災いして、周りに「観ろ」と迫られれば迫られる程、つい後回しにしてしまう。

そして何といっても、『スター・ウォーズ』シリーズのクワイ=ガン・ジン役や『96時間』シリーズなどで知られるリーアム・ニーソンが『シンドラーのリスト』の主役を務めているということも、私の鑑賞意欲を削いでしまう。

これは決して彼が嫌いという訳ではなく、私はありえないくらい強いリーアム・ニーソンしか知らないのだ。特に最近、彼のアクション俳優としてのブレイクは顕著で、私はどうしても「リーアム・ニーソンは人間兵器」という印象を拭うことができない。

つまりは『シンドラーのリスト』で、きっと悲惨な目に遭うリーアム・ニーソンを受け入れるための心の準備が出来ていないだけなのかもしれない。

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ

© 1984 - Warner Bros.

私の個人的な体感ではあるが、名作マフィア映画は尺が長い。『グッドフェローズ』の146分なぞ可愛い方で、『ゴッドファーザー』は175分、『カジノ』は178分にも上る。最近の映画ではあまり見かけなくなったが、映画館での上映中にインターミッション(途中休憩)が設けられることもあったくらいだ。

『荒野の用心棒』『夕陽のガンマン』などイタリア製西部劇(マカロニ・ウエスタン)で知られるセルジオ・レオーネの監督作であり、上記マフィア映画と共に紹介されることも多い『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』の上映時間は、なんと229分。私は本作のDVDを購入しはしたのだが、この尺の長さを見て絶望した。

これはかなり腰を据えて観なくては……。そう思ってDVDを棚に置いてから、早6年は経過している。いつ観れば良いんだ、これ。

ちなみにこのDVDだが、私よりも先に私の友人が勝手に私の家から持ち出して鑑賞済みだという。曰く、「映画2本観たような重厚さだった」とのことだが、2本分の長さなのだから、そりゃそうだろう。とにかく、ただ長いだけではない事は確かなようだ。

十二人の怒れる男

© 1957 - MGM

『十二人の怒れる男』は、低予算映画でよく使われる「とある狭い空間が主な舞台」という設定を完璧に生かした作品だ。舞台となるのは十二人の陪審員が集った部屋で、あからさまに有罪である被疑者に対して十一人が死刑を求めるものの、残る一人が「ちょっと待て」と言う……という話だ。

なぜ私がここまで粗筋を知っているかと言うと、私は『12人の怒れる男』を観たことがあるからだ。正確に言うと、2007年に制作されたロシア版の『12人の怒れる男』を観たことがある。だが、不朽の名作と言われるオリジナル版――1957年にアメリカで公開された『十二人の怒れる男』は未見のままである(※)。

※1957年の映画は、1954年に放映されたドラマのリメイクである(そのドラマも小説を基にしている)が、便宜上1957年の映画を「オリジナル版」と呼ぶ。

はっきり言ってしまおう。私は確信を持ってこう言える。この「未見だが名作らしい映画リスト」の中でも、『十二人の怒れる男』だけはどう転んでも名作であると。何故なら、ロシア版の『12人の怒れる男』が尋常じゃないくらい面白かったからだ。

この映画では人の命を握ることの責任の重さが、まさに十二分に描かれている。話の展開が面白いというだけではなく、見終わった後に議論を始められる映画なのだ。それを名作と呼ばずに何と呼ぼう。

皆さんも、重厚な法廷(陪審員)ドラマを味わいたいときは是非『十二人の怒れる男』を鑑賞してみてはいかがだろうか。私がオリジナル版を鑑賞する前に。

ブギーナイツ

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私の良き映画友達であるわかめ氏は、ポール・トーマス・アンダーソン(PTA)監督の従順なる崇拝者である。私もPTA監督作品は好きだが、彼に言わせれば私なぞ「にわか中のにわか」で、私もそれを否定しようとはしない。

何故なら、私は彼が監督した8本の長編映画のうち、3本しか鑑賞していないからだ。私は毎夏「PTA祭り」と称して全作品マラソンを敢行しようとするものの、どうしてもやるやる詐欺で終わってしまう。PTA作品は何故かBlu-rayが入手困難なのだ。

PTA作品のBlu-ray事情はとにかくとして、『ブギーナイツ』は相当にぶっ飛んでいるらしい。「ポルノ産業を舞台に、ナニがでかいというだけで成り上がったマーク・ウォルバーグが主人公」という設定が既に面白い。

しかもPTAは後年『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』や『ザ・マスター』など極めて真面目な作品を制作しているだけに、PTAはきっと真剣にポルノを研究しまくったんだろうな……と思ってしまう。彼は、映画の為なら本当にポルノの制作までやりかねない程に、真摯にテーマと向き合う監督なのだ。

PTAの天賦の才を表す逸話をひとつ紹介しよう。彼は2017年にアメリカで公開された『ファントム・スレッド』の制作を決めた時、スケジュールの都合でいつも撮影監督として起用しているロバート・エルスウィットを捕まえることができなかった。そこで「いつも彼のやることを見てたから何とかなるだろう」と思い、試しに自らが撮影監督も兼任したら、どうしてか作品が出来上がってしまったのだという。

こんな逸話は知っているのに、『ブギーナイツ』はおろか、『ファントム・スレッド』も観ていない。わかめ氏が私をなじるのも、当然だろう。

WALL·E

© "Disney/PIXAR. All Rights Reserved."

最後に可愛いのが来たな、と思われるかもしれないが、私は『WALL·E』が大好きだ。本編を観たことが無いにもかかわらず、だ。 “本編を” というところが肝で、YouTubeにて公開されている予告編なら何度も観たことがある。そして毎度、予告編だけで泣きそうになってしまう。

私は既にこの作品に救われているとも言えよう。主人公は言葉を発することこそ無いが、逆に他人の言葉で汚されたことも無いような純白な心を持ち合わせている。その心に突き動かされた健気な行動を見ているだけで、如何ともし難い世の中で生きている私は泣けてきてしまうのだ。ああ、この子はどうしてこんなに真っ直ぐなんだろう、と。

ここまで感動していれば、これは最早その作品を “観た” ということにならないだろうか?

無論、ならないだろう。では私は何故『WALL·E』を観ていないのか。それは、予告編が余りにも心に響いたため、本編で少しでも不満点が出ることが恐ろしいのだ。

下世話な例えだが、それは街中を歩いていて素敵な後ろ姿を見かけた時の心持に似ている。是非とも顔を覗き見たいのだが、顔を見たら幻滅するかもしれない。だから、良き思い出として後ろ姿だけを記憶する……。そんなウジウジした思考が続く限り、永遠に一歩踏み出すこと叶わないだろう。

まとめ

以上、長々と観てもいない映画の紹介を行ってきたが、結局何が言いたかったかというと、「ちゃんと名作という認識はしているよ」ということである。

今回紹介した映画を観てないと言うと、「そんなんで映画好き名乗るんじゃねぇ!」と鼻息を荒くする方もいらっしゃるだろうが、面白くなさそうだから観ていない訳では決してない。タイミングが合わなかったり、何となくそんな気分じゃなかったりという理由で先延ばしにしてしまっているだけなのだ。

万人から「名作」と認められている作品であれば、これからもどこかで巡り合うこともあるだろう。だから、私がこれらの映画を観るタイミングが、いつか必ずやってくるはずだ。

そう、いつかは。

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そうた

編集を担当。ホラー映画やサスペンス映画など、暗めの映画が好き。『ジャーヘッド』を愛しすぎてHD DVDまで買ったものの、再生機器は未購入。山に籠って薪を割る生活を夢見ている。

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