【ネタばれ無】
「ターミネーター」ほど失敗を重ねた映画シリーズを、私は知らない。
もちろん、SFサスペンスの金字塔である『ターミネーター』『ターミネーター2』を揶揄している訳ではない。問題はその後だ。
映画史屈指の2作品に続いたのは、何故かライトな作風に舵を切った『ターミネーター3』、何故かターミネーターに追われなくなった『ターミネーター4』、何故か予告編で盛大にネタばれしていた『ターミネーター: 新起動/ジェニシス』と、評価が著しく低い続編ばかりが製作された。
リブートと称しては前作を無かった事にしながら前進(後退?)を続け、『新起動/ジェニシス』では遂に『ターミネーター2』も無かった事にするという醜態を晒してしまった。立て続けに失敗し続ける本シリーズが行き着いたのは、またしてもリブートという選択だ。
だが今回のリブートは一味違う。2019年11月8日(金)から日本で公開されているシリーズ最新作『ターミネーター:ニュー・フェイト』(原題:Terminator: Dark Fate)は、『デッドプール』で一躍売れっ子となったティム・ミラーを監督に迎え、『ターミネーター2』でサラ・コナーを演じたリンダ・ハミルトンも呼び戻しているのだ。
“『ターミネーター2』の正統な続編” というお墨付きをシリーズの生みの親であるジェームズ・キャメロンから得た(4年ぶり2度目)本作は、素直に「ようやくシリーズが生き返ったな」と感じられるくらいターミネーターらしい作品だった。
だが本作の内容以上にお伝えしたいのは、この作品がアーノルド・シュワルツェネッガーの生き様を語る上で大変重大な意味を持つということだ。『ニュー・フェイト』を彼の人生と重ねるためにも、まずは彼を彼たらしめる信条から紹介していきたい。
筋肉と栄光が語る成功の秘訣

読者の方々はアーノルド・シュワルツェネッガーが誰か知っているだろうから、彼の紹介は簡単に済ませよう。
彼はオーストラリアに生まれ、“ボディビルディング” を極めるべく渡米。肉体美を以てその名を世界中に轟かせ、俳優業にも足を踏み込んだ。アクション俳優としても圧倒的な人気を誇り、英語圏では「アーニー」「シュワーツィー」、日本では「シュワちゃん」の渾名で親しまれている。
ボディビルディング、映画産業、さらにはカリフォルニア州知事としても活躍した彼の手腕を「才能」の一言で片付けてしまうのは簡単だ。しかしその裏には、言葉通り血が滲むほどの努力があったことを忘れてはならない。
アーニーは彼なりの成功の秘訣を、様々なスピーチにて紹介している。
彼が自身の体験から抽出した「成功に欠かせないファクター」を簡潔にまとめると以下の通りだ。
- 自分を信じる
- (たまに)ルールを破る
- 失敗を恐れるな
- 否定派に耳を貸さない
- 休まず鍛え続ける
- 恩返しを忘れない
※スピーチによっては少し形を変えて5つのルールとなっているが、伝えたいことは概ね同様だ。
このファクターがオリジナリティに溢れているかと言うと、そうではないだろう。だがアーニーの筋肉と栄光がこのファクターに絶大なる説得力を与えているのは間違いない。
アーニーのスピーチは聞けば誰もが生きる気力を貰えるくらい示唆に富んでいるので、一語一句解説したいのは山々だが、ここでは『ニュー・フェイト』と彼の信念を重ねるためにも「失敗を恐れるな」「否定派に耳を貸さない」に焦点を当てたい。
「失敗しても挑戦し続ければ問題ない」を地で行く男

まず失敗について、アーニーは以下のように語っている。
常に勝ち続けることは不可能だ。だからと言って、決断を恐れてはいけない。失敗する恐怖に慄いていては、自分を高めることなんて出来やしない
アーノルド・シュワルツェネッガー
何度失敗と言われようとも「ターミネーター」シリーズを諦めなかったアーニーは、まさにこの言葉を体現していると捉えられる。逆説的に言うと、失敗しても立ち上がり続けてきた彼だからこそ「失敗を恐れるな」というありきたりな言葉に、彼の人生の重みを感じることができるのだ。
また彼は「何にでも『無理だよ』と言う否定派には耳を貸すな」とも言っている。「『無理だ、誰にも出来っこない』と言われるのは喜ばしい事だ。だって、もしその何かをやってのけたら、君は世界で初めて成功した人間になれるんだから」
『ターミネーター』『ターミネーター2』という輝かしい名作に続く “正統な続編” を作る上で、彼を含めた制作陣は失敗し続けた(※)。今度こそとやり直しはすれど、「上手くいくはずがない」「また駄作だろう」と言われたことなんて数え切れないほどあるだろう。
※正確に言うとアーニーは『ターミネーター4』に出演していないが、おまけキャラクターとしてカメオ出演させられていた。
それでも『ニュー・フェイト』にたどり着いたのは、アーニーが「失敗しても挑戦し続ければ問題ない」と心の底から信じているからに他ならない。アーニーは世界中の人々の目の前で失敗を繰り返しても、それを恥と思わず「最後に成功すれば良い」と歩み続けるのだ。
『ニュー・フェイト』は、シリーズを復活させたという以上に、アーニーの生き様を体現した作品でもあるのだ。
アーニーの生き様が光るT-800

1作目の『ターミネーター』が公開された当時は、アーニーが演じたT-800を「オーストリア訛りが強く演技が上手くない彼にとって(口数が少ないため)ハマり役だった」と評価する人が多かったそうだ。
しかしよく考えてみれば、シリーズを通して登場するT-800(『ターミネーター3』でのみT-850)はアーニーの「失敗しても絶対に諦めない」という信念から生まれ出たようなキャラクターではないか。
『ターミネーター』ではどこまでも追いかけてくる殺人マシーンとして。『ターミネーター2』以降はどこまでもジョン・コナーを守る用心棒として。腕を千切られようと、足が動かなかろうと目的に向かって歩むことを止めないその姿は、まさにアーニーの生き様そのものだ。
もちろん『ニュー・フェイト』でも、絶対に諦めないアーニーの姿を見ることができる。72歳ということもあってさすがに派手なアクションこそ見ることはできないが、老いてなお人間のために戦い続けるT-800の姿には、若い頃のアーニーにはなかった哀愁が溢れており、筆者は涙せずにはいられなかった。
本作がシリーズを墓場から呼び戻せたかどうかに関して、きっと巷では意見が分かれているだろう。だがひとまず否定派には耳を貸さず、是非劇場に足を運んで自分の目で見て判断していただきたい。
アーニーの生き様に敬意を表するためにも。
余談:だが予告編、お前は許さん

と、さも不満が無さそうな口振りで記事を書いたが、最後にひとつだけ言っておきたい事がある。
予告編でアツいシーンを見せ過ぎ。
確かに動員数を伸ばす為にも、アツいシーンを予告編に盛り込まないといけないのは理解できる。だが、本編でかなり長い時間引っ張る謎の答えを予告編に盛り込むのは如何かと思う。
「実は……!」みたいな顔して本編で明かされても「そらせやろな」としかならないではないか。知らなかったら、映画館でも思わず声を出すレベルでアツいのに。
冒頭でも紹介していた通り『ターミネーター: 新起動/ジェニシス』でも予告編で盛大にネタばれをしていたことを考えると、予告編を作った米国の会社も「挑戦し続けたらええねん」と思ってしまったのだろうか。
失敗は学んでこそ糧になる、とアーニーから一言お声がけ頂きたいものだ。